改変型AAVベクターによる神経変性疾患の遺伝子治療

2015 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 26293213
• 研究機関: 自治医科大学
• 研究代表者: 村松 慎一 自治医科大学, 医学部, 教授 (10239543)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: 認知症 / 遺伝子治療

研究実績の概要

血液脳関門、髄液脳関門を透過し中枢神経系の広範な領域の神経細胞に目的の遺伝子を送達可能な改良型アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを応用して、認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症の病態の解明と新規遺伝子治療法を開発することを目標に研究を実施した。ヒトと同様の老人斑を生じる老齢カニクイサルを使用して、アミロイドβ蛋白質を分解する酵素Neprilysinの遺伝子を搭載した改変型AAVベクターを脊髄腔内に投与した。組織解析により脳と脊髄の種々の領域の神経細胞でNeprilysinの発現を確認した。神経伝達物質を供給する遺伝子治療においては普遍的プロモーターより神経細胞特異的プロモーターを搭載したAAVベクターの方が有効であることを示した。神経細胞の分化調整因子であるPqbp1欠損マウスを使用して、Pqbp1遺伝子を搭載したAAVベクターの子宮内投与により胎児期に遺伝子治療が可能であることを報告した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

老齢サルでNeprilysin遺伝子を搭載したAAVベクターの投与実験を行い、脳の神経細胞で遺伝子発現を確認した。AAVベクターの改良を継続するとともに、遺伝性Alzheimer病の出生前治療を可能とする子宮内投与実験も実施した。

今後の研究の推進方策

1.認知症の病態解析と遺伝子治療開発： Neprilysinの遺伝子を搭載した改変型AAVベクターを脊髄腔内に投与した老齢サルの組織解析を継続して実施する。Aβに対する抗体分子を発現するAAVベクターを作製し、血管内あるいは髄腔内投与によりAβの除去を試みる。
2.ALSの分子病態に基づいた遺伝子治療開発：ALSの運動ニューロンで発現が低下しているRNA編集酵素ADAR2の遺伝子を搭載した改良型AAVベクターを作製する。カニクイサルの脊髄腔にこのベクターを投与し、脊髄運動ニューロンにおけるRNA編集機能の回復効果を検証する。
3.脊髄小脳失調症の遺伝子治療としてAAVベクターによりmiRNAを発現させる治療法を開発する。

研究成果

• [雑誌論文] Evaluation of 6-11C-methyl-m-tyrosine as a PET probe for presynaptic dopaminergic activity: a comparison PET study with β-11C-L-DOPA and 18F-FDOPA in Parkinson disease monkeys. (2016)
  • 著者名/発表者名: Kanazawa M, Ohba H, Harada N, Kakiuchi T, Muramatsu S and Tsukada H
  • 雑誌名: J Nucl Med 巻: 57(2) ページ: 303-308
  • DOI: doi: 10.2967/jnumed.115.161802.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Freezing of gait in Parkinson’s disease is associated with reduced 6-[18F]fluoro-L-m-tyrosine uptake in the locus coeruleus. (2016)
  • 著者名/発表者名: Ono S, Sato T and Muramatsu S
  • 雑誌名: Parkinsons Dis 巻: 2016 ページ: 5430920
  • DOI: doi: 10.1155/2016/5430920.
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] In utero gene therapy rescues microcephaly caused by Pqbp1-hypofunction in neural stem progenitor cells. (2015)
  • 著者名/発表者名: Ito H, Shiwaku H, Yoshida C, Homma H, Luo H, Chen X, Fujita K, Musante L, Fischer U, Frints SGM, Romano C, Ikeuchi Y, Shimamura T, Imoto S, Miyano S, Muramatsu S, Kawauchi T, Hoshino M, Sudol M, Arumughan A, Wanker EE, Richi T, Schwartz C, Matsuzaki F, Bonni A, Kalscheuer VM and Okazawa H
  • 雑誌名: Mol Psychiatry 巻: 20(4) ページ: 459-471
  • DOI: doi: 10.1038/mp.2014.69.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Benefits of neuronal preferential systemic gene therapy for neurotransmitter deficiency. (2015)
  • 著者名/発表者名: Lee NC, Muramatsu S, Chien YH, Liu WS, Wang WH, Cheng CH, Hu MK, Chen PW, Tzen KY, Byrne BJ and Hwu WL
  • 雑誌名: Mol Ther 巻: 23(10) ページ: 1572-1581
  • DOI: doi: 10.1038/mt.2015.122.
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Mutational and functional analysis of Glucose transporter I deficiency syndrome. (2015)
  • 著者名/発表者名: Nakamura S, Osaka H, Muramatsu S, Aoki S, Jimbo EF and Yamagata T
  • 雑誌名: Mol Genet Metab 巻: 116(3) ページ: 157-162
  • DOI: doi: 10.1016/j.ymgme.2015.08.006.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Na, K-ATPase α3 is a death target of Alzheimer patient amyloid-β assembly. (2015)
  • 著者名/発表者名: Ohnishi T, et al.
  • 雑誌名: Proc Natl Acad Sci U S A. 巻: 11;112(32) ページ: E4465-E4474
  • DOI: doi: 10.1073/pnas.1421182112.
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Induction of neuronal axon outgrowth by Shati/Nat8l by energy metabolism in mice cultured neurons. (2015)
  • 著者名/発表者名: Sumi K, Uno K, Matsumura S, Miyamoto Y, Furukawa-Hibi Y, Muramatsu S, Nabeshima T and Nitta A
  • 雑誌名: Neuroreport 巻: 9; 26(13) ページ: 740-746
  • DOI: doi: 10.1097/WNR.0000000000000416.
  • 査読あり
• [学会発表] AADC欠損症に対する遺伝子治療. (2016)
  • 著者名/発表者名: 山形崇倫, 小島華林, 宮内彰彦, 多賀直行, 小野さやか, 斎藤順一, 嵯峨泰, 水上浩明, 加藤光広, 中嶋剛, 小坂仁, 村松慎一
  • 学会等名: 第15回日本再生医療学会総会 シンポジウム
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 2016-03-18
• [学会発表] 定位的脳手術を用いたAADC欠損症に対する遺伝子治療臨床研究—遺伝子工学と機能神経外科の融合—. (2016)
  • 著者名/発表者名: 小島華林, 村松慎一, 宮内彰彦, 小野さやか, 多賀直行, 水上浩明, 小坂仁, 山形崇倫, 中嶋剛
  • 学会等名: 第56回日本神経学会学術大会 教育講演
  • 発表場所: 仙台
  • 年月日: 2016-01-23
• [学会発表] 神経疾患の遺伝子治療. (2015)
  • 著者名/発表者名: 村松慎一
  • 学会等名: 第57回日本先天代謝異常学会総会
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 2015-11-12
  • 招待講演
• [学会発表] Gene therapy for Neurodegenerative Diseases. (2015)
  • 著者名/発表者名: Muramatsu S
  • 学会等名: The 21th Annual Meeting of the Japan Society of Gene Therapy
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 2015-07-25
• [学会発表] パーキンソン病における軽度認知機能障害と線条体AADC機能解析. (2015)
  • 著者名/発表者名: 小野さやか, 藤本健一, 川合耕一郎, 齋藤順一, 佐藤俊彦, 村松慎一
  • 学会等名: 第56回日本神経学会学術大会
  • 発表場所: 新潟
  • 年月日: 2015-05-23
• [学会発表] Parkinson病の細胞移植ー;歴史. (2015)
  • 著者名/発表者名: 村松慎一
  • 学会等名: 第56回日本神経学会学術大会 教育講演
  • 発表場所: 新潟
  • 年月日: 2015-05-21
• [産業財産権] てんかん治療のためのアデノ随伴ウイルスビリオン (2016)
  • 発明者名: 村松慎一、小黒恵司、島崎久仁子
  • 権利者名: 村松慎一、小黒恵司、島崎久仁子
  • 産業財産権種類: 特許
  • 産業財産権番号: 2016-006191
  • 出願年月日: 2016-01-15