研究課題
糖尿病性腎症(腎症)の主体は蛋白尿を伴う糸球体病変であり、ポドサイト障害が腎症の発症や進展に寄与していると考えられている。本研究により、腎症におけるポドサイト障害が高度蛋白尿の原因となり得ること、またその背景にはオートファジー不全が関与しうることを明らかとした。具体的には、ヒト腎生検組織票本を用い、腎症におけるポドサイトでのオートファジー活性を検討するとともに、遺伝子改変マウスを用い、腎症発症機構におけるオートファジーの役割を検討した。結果、ヒト腎生検組織の検討では、糖尿病を伴う高度蛋白尿症例において、ポドサイトでのオートファジー活性の低下が確認された。更に、高脂肪食負荷により肥満2型糖尿病を誘発したポドサイト特異的オートファジー欠損マウスは、対照マウスに比し有意なポドサイト数の減少ならびに足突起の消失を伴う蛋白尿の顕著な増加、引き続く尿細管間質病変の悪化を認めた。これらの結果は、ポドサイトにおけるオートファジーは糖尿病状態における同細胞の恒常性維持に不可欠な機構であり、その破綻が高度蛋白尿の原因となりうることを示している。さらに近位尿細管細胞ならびに肝細胞における飢餓誘導性オートファジーには飢餓時における組織脂肪酸蓄積ならびにその後のケトン産生に不可欠な過程であること、その不全は飢餓時の活動性低下を引き起こすことを明らかとした。また、哺乳類に存在するシャペロン介在性オートファジー(CMA)の糖尿病における役割を検討した結果、CMA欠損マウスでは褐色脂肪細胞における熱産生の増加を伴う代謝の亢進、高脂肪食負荷に対する抗肥満、抗糖尿病効果を示すことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
予定した遺伝子改変マウスの作製ならびに解析は順調に進行し、結果科学論文として公表するに至っている。現在、それらの結果を背景にさらなる遺伝子改変マウスの作製ならびに研究の立案に至っている。
①糸球体上皮細胞特異的オートファジー欠損マウスは通常食飼育条件では特に腎病変をきたすことなく、糖尿病状態においてのみ腎障害の悪化を呈した。この背景には血管内皮異常との関連があるのではないかと考えている。この仮説を検討するために糸球体上皮細胞特異的オートファジー欠損マウスと血管内皮機能異常モデルマウスであるeNOS欠損マウスとの交配を行い、糸球体上皮細胞特異的オートファジー欠損マウスが腎症病変の悪化をきたすかを検討する。②糖尿病予防にはオートファジー抑制が有用であり、合併症予防にはオートファジー活性化が有用となる知見が得られている。よって、オートファジーを標的とした安全な治療の確立の為には、まず生体におけるオートファジー不全状態を検出する必要がある。その為に、オートファジー不全マウス、肥満マウスの血清を用い、糖尿病に関連したオートファジー不全を反映する血清バイオマーカーの探索を目指す。オートファジー不全マウスと肥満マウスで共通した変化を示すバイオマーカーの検索から開始し、適宜ラパマイシン投与(オートファジー活性化)群を追加し、候補分子を絞り込む糖尿病症例コホートの尿・血清サンプルを用い、新規バイオマーカーの有用性を検討する。また、臨床サンプルを用いオートファジー不全を反映するバイオマーカーを探索する。マウスでの尿、血清メタボローム解析から同定された新規バイオマーカーの有用性を、当科での糖尿病長期前向き研究で保存している尿・血清サンプルを用いValidationする。その後、全てのサンプルを用い、同定分子の定量化、各症例毎の腎予後との比較検討を行い、新たなオートファジー不全、腎症進展指標の確立を目指す。同定されれば、将来のオートファジー活性化薬をより安全に使用可能な患者選択法の確立に繋がる。
概ね研究計画に準じて研究費を使用したが、研究の一部に遅れが生じたため少額の研究費が残ることとなった。本研究内容は次年度に引き続き継続されており、繰越し使用することとした。
本年度に遅れた研究内容を継続して実施しており、繰越し金全てを物品費として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
Autophagy. 2016;12(4):709-10.
巻: 12 ページ: 709-10
10.1080/15548627.2016.1151597.
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 18944
10.1038/srep18944.
Autophagy
巻: 11 ページ: 2385-2386
10.1080/15548627.2015.1115173.
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 465 ページ: 249-255
10.1016/j.bbrc.2015.08.010.
Diabetes
巻: 65 ページ: 755-767
10.2337/db15-0473.