研究課題
我々は、プロリン異性化酵素Pin1が過栄養状態で増加し、糖・脂質代謝調節と炎症の両者において重要な役割を果たすことで、メタボリックシンドロームの成因に関与していることを世界に先駆けて証明してきた。そこで、Pin1の各種臓器特異的マウスを作成し、その役割と糖尿病や肥満状態における発現量の変化について検討を行った。脂肪組織のPin1の発現量は、2週間の高脂肪食負荷によって10倍近く上昇することが判明した。また、β細胞特異的Pin1 KOマウスを作成したところ、このKOマウスは耐糖能が顕著に悪化していることが判明した。β細胞量の減少と共に、β細胞からのグルコース反応性のインスリン分泌も低下していることが判明した。これらの機序についての詳細を検討中である。一方、2011年にSharpin、HOIL、HOIPから構成される複合体(LUBAC)が、サイトカイン、LPS、FFA等の刺激によるNF-κB活性化に不可欠であることが示された。我々は、Pin1がLUBACに結合することや、肥満や高脂肪食負荷マウスの肝臓や脂肪ではLUBAC複合体形成が顕著に減少している知見を得た。このようなLUBACの減少は、急性の肝障害を発症させたマウスでも認められた。さらに、興味深いことに、SharpinやHOIPをshRNAを発現するアデノウイルスを用いて、LUBACを減少させると、肝細胞がアポトーシスに陥り、繊維化を伴った肝硬変状態に至ることが判明した。従って、正常な肝細胞が維持されるためにLUBACは必須の因子であり、この障害が肝細胞死に関与している可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
Pin1に関しては、臓器特異的なKOマウスが順調に作成されており、膵臓β細胞、消化管、脂肪細胞における機能が順調に解明されている。また、Pin1に関しては、新規の阻害薬の開発に取り組んでいるが、予想より順調に進行している。また、計画には含まれていなかった、腎臓のPin1に関しても病態との関連を示すデータが得られつつあり、予想以上の成果が得られそうである。一方、LUBACに関しては、ほぼ予想通りに進んでおり、肝細胞の生存に必須であることが証明されてきている。TFGに関しても、KOマウスを作成しており、これからの成果が期待できる状況にある。
ⅠPin1含有複合体形成をターゲットとする薬剤のスクリーニング系開発:インスリン抵抗性や炎症に関与する複合体を、①病態モデルにおける結合量の変化、②臓器特異的KOマウスの結果、③患者臓器における複合体形成の変化から、絞り込む。次に、治療標的となる可能性が考えられる複合体に関しては、構成タンパク間の結合を制御する化合物を、FRET法やBRET法を用いてスクリーニングする系を構築する。この系を利用して目的の化合物を取得し、得られた候補薬剤が、培養細胞やマウスのエネルギー代謝や糖代謝に与える影響を解析し、リード化合物としての可能性を探求する。II 標的蛋白をリン酸化するキナーゼの同定とその阻害剤による治療効果の検討:Pin1は標的タンパクのpSer/Thr-Proを含むモチーフに結合するため、結合には特定のSerもしくはThrがリン酸化されている必要がある。そこで、個々のPin1結合タンパクに対して、結合部位内のSer/Thrをリン酸化しているキナーゼの同定を試みる。方法として阻害剤ライブラリーやkinomeライブラリーにより標的蛋白によるリン酸化の消失をphostagを用いて同定する。そのキナーゼの阻害剤を用いてPin1と個別のタンパクとの結合を阻害することができれば、治療薬剤への開発につながる可能性が期待できる。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 12件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件)
Diabetol. Metab. Syndr.
巻: 7 ページ: 104
J. Biol. Chem.
巻: 290 ページ: 24255-24266
Nat. Commun.
巻: 6 ページ: 7940
PLoS One
巻: 10 ページ: e0135554
Mediators Inflamm.
巻: 12 ページ: 125380
巻: 7 ページ: 50
Obesity
巻: 23 ページ: 1460-1471
PLoS One.
巻: 10 ページ: e0127467
Am. J. Physiol. Endocrinol Metab.
巻: 309 ページ: E214-23
Am. J. Physiol. Gastrointest Liver Physiol.
巻: 309 ページ: G42-51
巻: 6 ページ: 6780
巻: 308 ページ: G151-8