研究課題/領域番号 |
26293222
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
山下 俊一 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (30200679)
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研究分担者 |
中島 正洋 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50284683)
光武 範吏 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (50404215)
サエンコ ウラジミール 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (30343346)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内分泌学 / 甲状腺がん |
研究実績の概要 |
乳頭癌の発がん機序の解明では、FOXE1の過剰発現の関与について研究を推進してきたが、疾患感受性遺伝子多型(SNPs)には、人種差を超えて大きな影響を与えるものの、直接的なFOXE1の過剰作用と発がんとの関係は、in vivo実験結果からは否定的であった。本研究成果を論文として公表する一方、FOXE1に関しては、放射線被ばくの有無でのSNPs調査研究の推進を分子疫学的に推進した。一方、in vitroにおける甲状腺乳頭癌特異的な新規遺伝子異常(再配列など)の探索を進め、これらの遺伝子異常についての機能解析も推進できた。さらに、甲状腺癌幹細胞の維持に関連する遺伝子群・シグナル伝達経路を同定するため、siRNA Libraryを用いた遺伝子ノックダウンとスフィアアッセイ、および自動セルイメージャーによる解析を組み合わせた新たなスクリーニング法を用いて研究を行った。現在、714のプロテインキナーゼ遺伝子に対するスクリーニングの結果、約100の候補遺伝子が、スフィア形成、おそらくは癌幹細胞の維持に重要な役割を果たしていることを示唆するデータを得ている。候補遺伝子のアノテーションから甲状腺癌幹細胞の維持に関与しているシグナル伝達経路をいくつか特定した中で、PDGFRb/JAK/STAT経路に対するsiRNAが最も効果的にスフィア形成能を抑制していた。また、候補遺伝子のひとつであるPimはこの経路の下流に存在し、NF-kBの活性化に関与することが報告されている。我々はこれまで甲状腺未分化癌細胞はNF-kB活性が極めて高く、アポトーシスを強力に阻害することで抗癌剤耐性に寄与していること、これらの癌幹細胞維持に関与する細胞内情報伝達系を明らかにし、PDGFRb刺激からJAK、STAT、Pimを介したNF-kBの活性化までのシグナル経路の関与と分子標的治療薬の開発研究を推進することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
世界的に広く使用されていたヒト甲状腺癌細胞株には、他の癌種の細胞株からのコンタミネーションや重複が発見され、研究に使用する細胞株の品質管理、検証が必要となった。まず、いくつかの適正と思われる細胞株を新たに収集し、その確認作業を行った。そのため、当初予定していた実験の開始まで、かなりの時間を要してしまったのが、遅れた理由である。さらにin vivoの実験結果からは、FOXE1の過剰発現マウスモデルにおける幾つかの組み合わせや、放射線照射実験からも、直接的な発がん機構の証明には到達しなかった。むしろ、過形成や嚢胞などの多彩な良性病変を病理組織学的に証明したことで、実験結果の解釈とその後の研究の方向性の転換が必要となった。分子標的治療の標的分子であるNFκBについての準備は、基礎研究成果を元に臨床応用が計画され、その治験の候補地の一つとしてロシア内分泌研究センターとの折衝が開始されている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の遅延を取り戻し、研究成果の完成を目指す。実際には、 ①発癌プロセスの解明では、マウス掛け合わせ後の解析を行う。 ②潜伏微小癌分子機構の解明において、得られた知見の活用から穿刺吸引細胞サンプル等への応用を本格化する。 ③癌幹細胞関連シグナルのスクリーニング後、得られた結果をデータベースと照合し、シグナル伝達経路等のパスウェイ・ネットワーク解析を行う。これにより、甲状腺癌幹細胞に重要なシグナル、分子グループを同定する。 ここで予想される問題点は、どれくらいの遺伝子が実際にスクリーニングによって拾い出されるか、そしてそのことによるデータ解析にあると考えられる。既にある種のキナーゼが候補として得られていることにより、おそらく結果が全く得られないとは考えにくい。多数の遺伝子が候補となった場合の対応に関しては、やはり治療効果が高いもの、自己複製能を阻害するもの、正常な細胞の活動に必須な代謝経路からはずれているもの、小分子化合物等で阻害出来る可能性が高いもの等を総合的に判断される。本研究によって効果のある遺伝子群の全体像が解明され、その中心的役割を担うと予想されるNFκBについては、継続して臨床治験の可能性をロシア内分泌研究所と連携して模索し、継続した科研の獲得を前提に準備を進める予定である。甲状腺がんの遺伝子変異に関する網羅的な探索研究は、その症例対象を小児甲状腺癌から成人癌まで広げて、予後良好な乳頭癌の遺伝子変異の特徴を明らかにすることで、分子標的治療の開発研究の可能性についても検証作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的に広く使用されていたヒト甲状腺癌細胞株には、他の癌種の細胞株からのコンタミネーションや重複が発見され、研究に使用する細胞株の品質管理、検証が必要となった。まず、いくつかの適正と思われる細胞株を新たに収集し、その確認作業を行った。そのため、当初予定していた実験の開始まで、かなりの時間を要してしまったのが、遅れた理由である。さらにin vivoの実験結果からは、FOXE1の過剰発現マウスモデルにおける幾つかの組み合わせや、放射線照射実験からも、直接的な発がん機構の証明には到達しなかった。むしろ、過形成や嚢胞などの多彩な良性病変を病理組織学的に証明したことで、実験結果の解釈とその後の研究の方向性の転換が必要となった。分子標的治療の標的分子であるNFκBについての準備は、基礎研究成果を元に臨床応用が計画され、その治験の候補地の一つとしてロシア内分泌研究センターとの折衝が開始されている。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画の遅延を取り戻し、研究成果の完成を目指す。実際には、①発癌プロセスの解明では、マウス掛け合わせ後の解析を行う。②潜伏微小癌分子機構の解明において、得られた知見の活用から穿刺吸引細胞サンプル等への応用を本格化する。③癌幹細胞関連シグナルのスクリーニング後、得られた結果をデータベースと照合し、シグナル伝達経路等のパスウェイ・ネットワーク解析を行う。これにより、甲状腺癌幹細胞に重要なシグナル、分子グループを同定する。甲状腺がんの遺伝子変異に関する網羅的な探索研究は、その症例対象を小児甲状腺癌から成人癌まで広げて、予後良好な乳頭癌の遺伝子変異の特徴を明らかにすることで、分子標的治療の開発研究の可能性についても検証作業を行う。
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