研究課題
本研究の目的は、性成熟疾患・性分化疾患患者のゲノム解析によって、新たな疾患発症メカニズムを解明することである。ヒト性成熟と性分化には多数の遺伝子と環境要因が作用すると推測されるが、その大部分は未解明である。そのため、性成熟疾患・性分化疾患患者の中で既知遺伝子変異が同定される症例は半数以下である。平成26年度は、主として先行研究で集積した46,XY・46,XX性分化疾患、ゴナドトロピン欠損症、中枢性性早熟症などの臨床検体を対象に、次世代シークエンサーを用いた既知疾患責任遺伝子と候補遺伝子の網羅的変異スクリーニングおよびアレイcomparative genomic hybridizationを用いた全ゲノムコピー数解析、既知DMRのメチル化解析やマイクロサテライト解析などを行った。さらに、in vitro解析、バイオインフォマティックス解析を行い、同定された変異の病的意義の有無の解明および既知遺伝子臨床スペクトラムの解明を行った。これによってゴナドトロピン欠損症、非症候性尿道下裂などの疾患における既知原因遺伝子変異の寄与の程度を明確とし、片親性ダイソミーに起因する劣性変異顕在化など新規発症機序を解明した。さらに、胎児期精巣分化の分子基盤解明を目指したモデル動物解析に着手した。平成27年度以降には、初年度の成果を発展させ、新たな疾患成立機序の解明を目指す。さらに、多数の患者のデータを集積し、日本人患者の変異パターンおよび臨床像を明らかとする。
2: おおむね順調に進展している
計画通りの進展が認められた。代表的成果は下記のとおりである。[1] ゴナドトロピン欠損症患者を対象とした既知責任遺伝子のターゲットリシークエンスおよびアレイCGHによる全ゲノムコピー数解析を行い、58例中14例において明らかな病的遺伝子変異を同定した。まれな遺伝子異常として、複合型下垂体機能低下症患者におけるWDR11スプライス変異、単独ゴナドトロピン欠損症患者におけるFGFR1欠失とSOX3ポリアラニン欠失を同定した。これによって、日本人患者における既知遺伝子変異の寄与の程度および既知遺伝子変異異常症の臨床スペクトラムが明確となった。[2] 非症候性尿道下裂患者の網羅的遺伝子変異解析およびコピー数解析を行い、本症患者の10%以上に既知単一遺伝子変異もしくはモザイク染色体構造異常が存在することを見出した。陰茎部開口尿道下裂を呈する比較的軽度な症例においても、病的単一遺伝子変異が存在することが明らかとなった。とくに重要な点として、本症がoligogenic disorderとして発症する可能性がはじめて見出された。[3] 尿道下裂患者1例において、新規MAMLD1スプライス変異を同定し、この変異が細胞内翻訳障害を招く可能性を見出した。これによって、MAMLD1変異が機能低下蛋白の形成、nonsense-mediated mRNA decayのみならず、発現蛋白量の低下を介して性分化疾患を招くことが明らかとなった。[4] 8番染色体父性片親性アイソダイソミーによりCYP11B1遺伝子劣性変異が顕在化し、11β水酸化酵素欠損症が発症した症例を同定した。常染色体劣性疾患の発症機序のひとつとして、片親性アイソダイソミーが関与することを明確とした。
研究計画の変更はない。平成27年度以降は、初年度の成果を発展させ、同定された新規疾患原因遺伝子の機能解析、変異陽性患者の臨床データ解析を行う。さらに、微細ゲノム構造異常に起因する性成熟疾患・性分化疾患の発症機序について検討し、遺伝子発現制御機構の破綻による疾患成立メカニズムを明らかとする。また、日本人患者における遺伝子変異データベースを作成する。さらに、多因子疾患として発症する性成熟疾患・性分化疾患の発症機序の解明および環境因子への反応性を規定する遺伝子多型の同定を行う。
本年度解析予定であったサンプルの一部が、当該患者の診療上の都合で入手が遅れた。このため、解析の一部を次年度に行うこととなった。このため消耗品の一部が次年度購入予定となった。
臨床サンプルの入手時期に合わせて、消耗品を購入する。6月ころに使用予定である。
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