研究課題/領域番号 |
26293228
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新井 文用 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90365403)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テロメアDNAダメージ / 造血幹細胞 / 細胞分裂制御 |
研究実績の概要 |
1.老化による造血幹細胞の自己複製・分化能の低下における細胞分裂制御機構の関与に関する研究: 1個の造血幹細胞の培養により生み出される1対の娘細胞ペア(paired daughter cell: PDC)について、個々の娘細胞の1細胞遺伝子発現プロファイルを、サポートベクターマシン(SVM)を用いて解析することにより、細胞分裂パターンを分類し、自己複製と分化の制御機構を解析するシステムを確立している(PDC-SVM解析)。この解析系を用い、1.5年齢のマウス造血幹細胞の細胞分裂様式を解析した結果、コントロールの8週齢マウス造血幹細胞は、2個の幹細胞を生み出す(S-S)分裂、幹細胞と前駆細胞を1個ずつ生み出す(S-P)分裂が維持されていたのに対し、1.5年齢サンプルは、ほぼ全てがP-P分裂を行うことにより、幹細胞数が失われることを見出した。 2.テロメアDDRの抑制による老化造血幹細胞の機能的再活性化: 8週齢の成体マウスと90週齢老化マウスの造血幹細胞について、テロメアDDRのレベルを比較したところ、老化マウス造血幹細胞においてテロメアDDRが亢進していることが分かった。さらに、90週齢の老化マウス造血幹細胞をshelterinコンポーネントの1つである、Pot1aのMTMタンパク質(MTM-Pot1a)存在下で培養し、骨髄移植を行ったところ、老化造血幹細胞の骨髄再構築能の回復が見られた。さらに驚くべき事に、老化造血幹細胞のコントロール培養サンプルでは、ドナー細胞の骨髄球系細胞への分化が亢進する一方で、リンパ球系分化が低下したのに対し、MTM-Pot1a添加した老化造血幹細胞は分化パターンがレスキューされることを明らかにした。 3. 上記の研究内容に加え、Pot1a以外のShelterin分子(Tpp1, Tin2)のMTMタンパク、レトロウイルスの作成が順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 本研究では、老化に伴う造血幹細胞の機能障害に細胞分裂の異常が関係していると仮設を立てて研究を行った。老化造血幹細胞の細胞分裂パターンのPDC-SVM解析により得られた実験データでは、細胞分裂パターンの制御に障害(S-SおよびS-P分裂能の喪失)が、老化に伴う造血幹細胞の機能障害、幹細胞の枯渇の原因となっていることが示唆されている。 2. MTM-Pot1aにより造血幹細胞のテロメアDDRを抑制し、骨髄移植を行った結果、老化造血幹細胞の骨髄再構築能のみならず、分化能まで回復することが明らかになった。これは予想を超えるデータであり、テロメアDDRの抑制により老化造血幹細胞の若返りを誘導できることを示唆するものと考えられた。 3. MTM-Tpp1タンパク、MTM-Tin2タンパクの作製が順調にすすんでおり、Pot1aに加えて、今後の実験に用いる準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 老化造血幹細胞においてテロメアDDRの亢進が見られること、また、細胞分裂様式がP-P分裂のみになることから、当初の予想通り、老化に伴う自己複製の障害に分裂制御の異常とテロメアDDRの亢進が関連することが強く示唆される。そこで、MTM-Pot1aを用いて老化造血幹細胞のPDC-SVM解析を行い、telomeric DDRを抑制することで、老化造血幹細胞の分裂パターンがレスキューされるか検討する。 2. Pot1aはTpp1-Tin2を介して核内に移行し、shelterin複合体を形成する。そこで、Pot1aに加え、Tpp1、Tin2をMTMタンパクとして造血幹細胞に導入することにより、①自己複製を伴うS-SおよびS-P分裂の促進、②骨髄再構築能の亢進、③老化造血幹細胞の機能回復が見られるかを検討する。 3. Polyethylene glycol (PEG)を用いて作製した人工ニッチ(PEGハイドロゲルマイクロウェル)上で造血幹細胞の培養を行うことで、造血幹細胞の自己複製分裂が亢進することを見出している。そこで、PEGハイドロゲルマイクロウェルを用いた培養にMTM-Pot1a, Tpp1, Tin2を組み合わせることにより、造血幹細胞の増幅を促進させる培養系の構築に挑戦する。また、MTM-Pot1a, Tpp1, Tin2以外に、ニッチ分子によるPEGハイドロゲルマイクロウェルの修飾を加えることにより、培養条件のさらなる改善を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、Pot1aのMTMタンパク(MTM-Pot1a)を用いた細胞分裂解析 (PDC-SVM) 解析を計画していたが、老化マウスのDNA損傷応答の解析を先行して進めるなど、スケジュールを変更した。そのため、PDC-SVM解析に使用するQ-PCRアレイ等の消耗品、および試薬を次年度に購入することとして繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
MTM-Pot1aを用いたPDC-SVM解析に使用するQ-PCRアレイ等の消耗品、および試薬の購入費用として使用する。
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