研究課題
B細胞を含むすべての血液・免疫細胞は造血幹細胞から作られる。その過程で多能性の造血幹細胞は徐々に分化能が限定されていき、最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞に運命決定される。E2A、EBF1、Pax5など様々な転写因子がB細胞への運命決定に関わっているが、詳細は明らかでない。特に、これら転写因子の標的遺伝子として示唆されている細胞内代謝調節遺伝子の役割は不明である。申請者らは最近B細胞への運命決定における分子機構を調べることの出来る新しい分化誘導系を開発した。この培養系を用いると、7日間で多能前駆細胞からB細胞系列への運命決定を誘導することが出来る。そこで本研究ではこの培養系を用いてB細胞への運命決定に必要なエネルギー代謝関連の遺伝子をスクリーニングし、その機能を明らかにすることを目的とする。本年度は研究計画に従い、インスリンシグナルのB細胞初期分化における役割を解析した。インスリンのシグナル伝達分子であるInsulin receptor substrate (IRS)-1を欠損したマウスを解析したところ、骨髄においてB細胞数が1/3-1/5程度に減少していた。また、脾臓のB細胞の機能成熟にも異常が認められた。次にIRS-1欠損マウス骨髄から造血幹細胞を採取しB細胞への分化を支持するTSt-4ストローマ細胞と共培養したところ、B細胞への分化が顕著に阻害されていたことからIRS-1がB細胞の分化・成熟を直接制御していると考えられた。このことはIRS-1を含めたインスリンシグナルが、B細胞の分化や機能維持に重要な役割を果たしていることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通り、iLS細胞のB細胞分化誘導系を用いて代謝系遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、B細胞系列への運命決定過程において、インスリンシグナルが、重要な役割を果たすことが明らかとなった。特に、IRS-1がB細胞初期分化に不可欠であることが示された。
研究はほぼ計画通りに進んでいる。今後はデータをまとめて論文を投稿することを目標に研究を進めていきたい。
遺伝子改変マウスの作成に予想以上に時間がかかったため、予定していたマウスの解析が次年度に持ち越しとなった。
繰り越した予算はモノクローナル抗体やRNA精製キットなどの試薬代として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件)
Genes & Development
巻: 30 ページ: 2475-2485
Appl Biochem Biotechnol
巻: 36 ページ: 1559-1573