研究課題
本研究は抗リン脂質抗体症候群(APS)のモデルマウスとして臓器梗塞、脳梗塞を来すモデルマウスを作成し、解析しAPSや脳梗塞の病態機序の解明と共に将来の新規治療開発に寄与する。APSの病態機序に関する最近の知見を加味してAPSモデルマウスを作成する2.APSモデルマウスを用いてAPSに対する特異的治療の開発を行う脳血管障害は本邦の死亡原因の第4位、重症介護認定患者数の第1位を占め未だに効果的な治療や予防法に乏しい。抗リン脂質抗体症候群(APS)は、抗リン脂質抗体(APL)の存在下で繰り返される動静脈血栓症を本態とするが、動脈血栓症の合併が多く90%以上が脳梗塞である。欧米の罹患率は全人口の2-4%と報告され決して稀でない。若年発症の脳梗塞も大きな問題である。APSの病態は近年多くの知見が得られているが、新規の治療・予防法に繋がっておらず治療の主体は抗凝固療法を主体とした2次予防である。APSの予防や治療法を確立させるには、当該治療や予防法の有効性を確認することができる動物モデルが必要である。APSモデルマウスはAPLの病原性(血栓惹起能)に着目し、経静脈的にモノクローナルAPLを投与し作成されるが、脳梗塞をはじめAPSで認められる広汎な血栓症を再現するに至らず、血管へのレーザー照射や結紮等によって局所で一時的に誘発される血栓の拡大傾向を示すにとどまる。APLが関係しない一般的な脳梗塞の動物モデルにおいても類似の問題があり、血管結紮など複雑な外科的処置を要し、再現性が乏しく梗塞範囲のばらつきが大きい。今後、臓器梗塞を来す良好なAPSモデルマウスの作成は非常に意義が高く、APSの主たる病態である脳梗塞を安定した表現型として得られれば、脳梗塞の研究にも応用が可能である。
3: やや遅れている
マウス実験の申請許可に時間を要しており、JL-1を用いたin vitroの検討を進めている。JL-1を用いたin vitroの実験では、抗リン脂質抗体の存在下におけるJL-1投与による補体依存性細胞障害作用を障害細胞から漏出する乳酸脱水素酵素(LDH)を酵素免疫低療法によって検出することによって行っている。更に、抗リン脂質抗体存在下にJL-1を投与することによって、向血栓細胞(単球、血管内皮細胞)が産生する組織因子(凝固外因系蛋白)が亢進することが予備実験で判明し、今後は、近日中にマウス実験の申請許可が得られる見込みのため、in vitroでの検討で得たデータを元にマウスでの抗体投与量を決めて検討を進める。
研究者らはapolipoprotein E(ApoE)KOマウスを用いた検討を行ったが、大量の抗リン脂質抗体と感染症などの生体ストレスを模したLPSの投与を併用しても明らかな血栓症や動脈硬化病変の悪化は認められなかった。来年度は、マウスモノクローナル抗C1q抗体であるJL-1を抗リン脂質抗体と共投与することによって、補体活性化を誘発し、よりAPS患者血液中で起こっている病態機序に近づけたモデルを作成する。最適と考えられるJL-1濃度、抗リン脂質抗体濃度について規定しており、それらを元にマウスを刺激する。一方、APS患者データから血清中の補体制御因子であるH因子の低下例が高率にあることが判明し、現在多数例で確認を行っている。血清H因子の低下は著明な補体経路の活性化を来たし、特に抗C1q抗体の存在下では相乗的に活性化される。APSでは、特に劇症型APSなど重症例で著明な補体活性化を来す例が多く、ApoEKOマウスを用いる上記モデルマウスで臓器梗塞が確認できない場合には、H因子KOマウスを用い、JL-1, 抗リン脂質抗体を共投与するモデルマウスについても検討が必要と考える。現在、H因子KOマウスについて入手予定である。モデルマウスを作成後に、血栓の巨視的観察(剖検による血栓量の測定)、微視的観察(カーボンブラック法、TTC(2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム)染色による血栓量の定量)、行動観察(異常行動の有無など)を行う。また、チオバルビツール酸(TBA)法を用いて脳組織中の凝固蛋白を定量評価する。臓器梗塞を伴う血栓症の発症が確認できれば、モデルマウスに対して抗血小板薬、抗補体治療を行い血栓形成の抑制効果を観察する
本年度分の実験の実施に関する物件費が足りたため。
昨年度の余剰分を実験実施用の物件費に充填させて頂きます。
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