研究実績の概要 |
自己免疫疾患の発症と進展には遺伝的要因に加え環境要因が重要である。近年、環境要因の一つとして、腸内環境が注目されている。我々は、腸管などの粘膜組織に豊富に存在するMAIT細胞などの自然リンパ球を介した自己免疫調節の研究を行う過程で、自己反応性T細胞受容体トランスジェニックマウスでは、腸管に存在する自己反応性T細胞は病態制御性の性質を持つことを見出し(Nat Commun 2016)、腸管における自己反応性T細胞の機能制御に重要な因子を動物モデル、臨床検体を用いて明らかにし、自己免疫病態の制御・予防につながる研究を目指した。昨年までの研究で、腸管に在住する自己応答性T細胞は腸内環境によって変化すること、自己免疫応答抑制にはLAG3分子を介した機序が重要であることを報告した(Nat Commun 2016)。またMAIT細胞については、関節リウマチ, 強直性脊椎炎, 全身性エリテマトーデス, 潰瘍性大腸炎において患者末梢血で低下することを明らかにした(J.Gastroenterol. Hepatol 2016 , J Rheum 2016, Arthritis Res Ther 2017)。本年度は、MAIT細胞の欠損するマウスを用いて、全身性エリテマトーデスならびに腸炎モデルを導入しMAIT細胞の役割を検討中である。自己免疫疾患の腸内細菌については、多発性硬化症で有意差を認めたため(PLoS One 2015)、それらの菌が産生する代表的な代謝産物である短鎖脂肪酸の自己免疫モデルに対する効果を検討した。短鎖脂肪酸を飲水に混入して投与したところ、多発性硬化症モデルならびにコラーゲン誘導関節炎では病態が軽快したが、抗体誘導性関節炎では病態が悪化したことから、短鎖脂肪酸はT細胞が病態形成に重要な病態の抑制に関与することが示唆された(PLoS One 2017)。
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