研究課題/領域番号 |
26293236
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
西本 憲弘 東京医科大学, 医学部, 兼任教授 (80273663)
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研究分担者 |
村上 美帆 東京医科大学, 医学部, 助教(特任) (30595591)
中田 研 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00283747)
斎藤 潤 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90535486)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 関節リウマチ / 骨髄 / 単球 / ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞) / 破骨細胞 |
研究実績の概要 |
関節リウマチ(RA)の主病巣は骨髄である可能性が報告されている。実際に重症RA患者の骨髄では健常人では殆ど見られないCD14+CD15+の表現型を有する単球系細胞が見られる。また、この細胞は癌特異的抗原を細胞表面に発現している。したがって、骨髄での単球の初期の増殖・分化の異常がRAの病態形成に関与する可能性がある。そこで、RA特異的ヒト人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells: iPS細胞)を樹立し、このiPS細胞から単球へのin vitroでの分化過程でCD14+CD15+細胞が発現するか否かを検討した。サイトカイン刺激による単球への分化誘導から15日目にCD14+CD15+細胞が一過性に検出された。このCD14+CD15+細胞の割合は健常人由来iPS細胞に比べてRA由来iPS細胞で有意に多かった。単球はRA患者の関節破壊破に関る破骨細胞の前駆細胞でもある。そこでiPS 細胞から破骨細胞への分化に異常があるか否かを検討した。まず、iPS 細胞から破骨細胞への分化の実験系を確立した。単球分化刺激の15-28日の単核球から磁気細胞分離装置を用いてCD14 陽性分画を分取し、M-CSF およびRANKL により破骨細胞への分化誘導を行ったところ、24-28日目の細胞からTRAP染色+の多核の破骨細胞が最も多く出現した。RA患者由来iPS細胞から分化した破骨細胞は、健常者由来iPS 細胞と比べ、細胞数、骨吸収能ともに有意に亢進していた。iPS細胞からCD14+CD15+細胞ならびに破骨細胞への分可能の違いは、RA患者の遺伝的因子あるいはエピジェネティックな修飾に起因する可能性を示唆する。ただし、iPS細胞から単球への分化はクローンごとにCD14+細胞の発現ピークにずれがあり、追加実験により確認する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうち、もっともハードルの高かった、疾患特異的iPS細胞の樹立に成功し、RA患者5例を含む7例のドナーからiPS細胞を樹立できている。さらに、in vitro分化系を用いて、単球への分化の初期段階でCD14+CD15+細胞が出現することを証明できた。しかもRA患者由来iPS細胞において、その出現率が高かったことから、このアプローチが間違っていなかったことを示す。当初の計画では、この段階で、出現率に差が出ない可能性も考えられた。その場合は、CD14+CD15+細胞の出現が、RA患者の骨髄におけるサイトカインの発現など環境因子によると考えられるが、本研究でRA患者由来iPS細胞で有意な差が出たことはRAの遺伝的因子あるいはエピジェネティックな修飾に起因する可能性を示唆しており、最も重要なコンセプト証明になっている。さらに、RA患者由来iPS細胞から、破骨細胞への分化系を確立した。ここでもRA患者と健常者由来iPS細胞との違いが示唆されたことから、本実験系のさらなる応用と発展の可能性を示す。これらの経過から、当初の3年の計画全体のほぼ70%は達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1.【RA特異的iPS細胞を用いた単球系細胞への分化実験】RA特異的iPS細胞を単球へ高純度に分化させ、各分化段階での遺伝子発現をマイクロアレイで網羅的に解析し、健常人由来のiPS細胞と比較することで、細胞分化異常がどの分化段階で生じるかを明らかにする。過去2年間で抽出したRNAの質が悪く、マイクロアレイ解析には不十分である。これはiPS細胞の初期分化で、死細胞比率が高いことに起因する。生細胞を選別することで、これを解決したい。各分化段階での遺伝子発現を網羅的にかつ経時的に解析することにより、血球分化のkeyとなる分子が同定できる可能性がある。 2.【RA特異的iPS細胞から破骨細胞への分化実験】RA特異的iPS細胞から単球へ分化させ、さらにRANKLを添加することで破骨細胞へ分化誘導を行い、破骨細胞への分化効率と骨吸収能の違いを健常人由来のそれと比較検討する。破骨細胞への分化効率と骨吸収能の違いが、どのようなメカニズムで生じているのかを明らかにする。Cathepsin K、MMP-9など分化マーカー、接着分子の発現の違いを明らかにする。 3.【iPS細胞の三次元培養実験】RA特異的iPS細胞を三次元培養系に供し、力学負荷による骨髄間葉系細胞由来の骨格形成細胞(軟骨細胞・骨芽細胞)ならびに免疫担当細胞への分化と細胞機能に対する影響を検討する。アテロコラーゲンゲルとコラーゲンスキャフォールドを用いて三次元培養組織を作製し,力学刺激培養システムにて培養組織の力学刺激応答を検討する。さらに上記のiPS細胞とin vitro培養系を用いて、抗リウマチ薬の反応性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、まず、研究図書の購入が予定より若干少なかったことがあげられる。また、研究成果が学会発表の水準にまでは達しなかった部分があり、学会などへの出張を行わなかったため、旅費が発生しなかったことがあげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
これらの金額と次年度以降に請求する研究費を合わせた使用計画としては、消耗品費ならびにネットワーク解析ソフト使用料に使用すること、学会への参加のための旅費に使用すること、などを計画している。
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