研究課題
平成27年度の研究実績の概要は以下のとおりである。1)細胞チップ上で抗原特異的CD4+ T細胞を検出する方法を確立した。実験には、I-Ab MHC クラス Ⅱ分子に結合した結核菌由来ペプチドを認識するP25 TCR トランスジェニックマウスを用いた。まず、I-Ab分子を発現した細胞から細胞膜ミセルに抗原ペプチドを負荷してT細胞を刺激した結果、ペプチド負荷でT細胞のサイトカイン産生が見られた。次に、I-Ab分子組換えタンパクを細胞で発現させ、界面活性剤で抽出後、抗原ペプチドを負荷してT細胞を刺激した結果、抗原ペプチド負荷によりT細胞のサイトカイン産生が見られた。2)単一細胞からのTCR遺伝子の単離は、T細胞の持つTCR-mRNAの量が少ないため、困難を伴う。この困難を克服するために、T細胞をあらかじめanti-CD3,IL-2, IL-4,マイトゲン等でin vitroで活性化して、RT-PCRを行うと増幅率が上がるかどうかを検討した。その結果、活性化によりTCR遺伝子の単離の確率が飛躍的に上昇した。3)これまで、取得したTCRの機能解析は、発現ベクターに組み込んだTCR遺伝子を、レトロウイルスベクターを用いてTCR欠損、CD4あるいはCD8遺伝子を導入したT細胞株(TG40)に導入し、TCR/CD3分子を膜に発現させて、ペプチドを発現させた抗原提示細胞で刺激し、活性化マーカーCD69の発現あるいはIL-2産生をFACSで測定してきたが、バックグランドが高いという課題があった。そこで、EG40細胞以外のさまざまな細胞株に外来性TCRを発現させ、機能解析ができるか否かを検証した。その結果、他の細胞株を用いて、より確実に迅速に機能解析が行えることが示された。また、その細胞株で直接、細胞を傷害できる可能性も示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、我々が独自に開発した「リンパ球チップ」という革新的なリンパ球単離技術を基盤として、抗体およびT細胞受容体(TCR)cDNAを迅速に単離し、「個の免疫医療システム」を確立することを目的としている。これまでの研究成果として、1)まず、新規マイクロウエルチップの開発を目的として、磁気盤をチップに配置した磁気チップに磁気ビーズをコートした細胞を播種する方法で、細胞導入率を飛躍的に上げることができた。2) 次に、抗原特異的T細胞の単一細胞の検出法(T-ISAAC)の確立を目的として、各ウェルに1個づつT細胞を播種し、チップ上で細胞をPMA/ionomycinで刺激し、23万個のT 細胞のサイトカイン産生を単一細胞レベルで検出できる方法を確立した。3) また、抗原特異的CD8+T細胞をT-ISAACで検出するために、CD8+ T 細胞自身のMHC クラスⅠ分子に抗原ペプチドを負荷し、チップ内で刺激し、抗原特異的にサイトカイン産生細胞を検出することができた。さらに、平成27年度の研究実績として、1)細胞チップ上でCD4+ T 細胞を抗原ペプチド刺激しサイトカインを産生させ、抗原特異的CD4+ T細胞を検出する方法を確立した。2) 次に、T細胞をあらかじめanti-CD3,IL-2, IL-4,マイトゲン等でin vitroで活性化することでTCR遺伝子の単離の確率が飛躍的に上昇させた。3)また、EG40細胞以外のさまざまな細胞株に単離したTCRを発現させ、機能解析が確実で迅速にできるシステムを開発中である。このように、本研究は目的に沿って、概ね順調に進展しているといえる。
1)取得TCRの新たな機能解析法の開発:これまで、取得したTCRの機能解析は、発現ベクターに組み込んだTCR遺伝子を、レトロウイルスベクターを用いてTCR欠損、CD4あるいはCD8遺伝子を導入したT細胞株(TG40)に導入し、TCR/CD3分子を膜に発現させて、ペプチドを発現させた抗原提示細胞で刺激し、活性化マーカーCD69の発現あるいはIL-2産生をFACSで測定してきたが、バックグランドが高いという課題があった。平成27年度には、EG40細胞以外のさまざまな細胞株に外来性TCRを発現させ、機能解析ができるか否かを検証し、他の細胞株を用いて、より確実に迅速に機能解析が行えることが示された。今後、この細胞株を用いて新たな機能開発法を開発する。2)可溶化TCR作製法の確立: 2種類、すなわち、sTCR(V領域とC領域を含む2量体)とscFv-TCR(単鎖可変領域からなる1量体)のTCR遺伝子を構築する。この遺伝子を大腸菌あるいはCHO細胞などに発現させ、可溶化TCRを得る。また、TCRの親和性を上げるために、TCRをマルチマー化する。最終年度までに、安定で高機能、高親和性の可溶化TCRの開発を集中的に行う予定である。3)ウエストナイルウイルスに対するヒトモノクローナル/可溶性TCRの樹立とそれらによる予防・治療効果の検討:ウエストナイルウイルス(WNV)は、高齢者層を中心に致死性の脳炎・髄膜炎を惹き起こす蚊媒介性のヒト感染性ウイルスである。本研究では、日本脳炎ワクチン接種後約1ヶ月後の血液からヒト抗ウエストナイルウイルスモノクローナル抗体を複数個樹立し、ウエストナイルウイルス感染に対する予防・治療効果を、マウスを使った動物実験で確かめる。
平成27年度の研究は計画通り順調に進展したが、チップを使った実験を行う必要が少なかったためチップにかかる費用が減少したことと、平成26年度に繰り越した金額が多かったことで次年度使用額が生じた。
平成28年度は最終年度のため、これまで以上に研究を進展させるとともに、国外・国内を問わず積極的に学会等に参加して成果の発信に努める予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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