未熟児や先天性心疾患患児では、胎生期特有の血管である動脈管を人為的に閉鎖ないし開存させなくてはならない場合がしばしばある。動脈管閉鎖の分子機序を解明し、新たな治療法を開発することは、小児医療上、極めて重要な研究課題である。我々は、動脈管が将来閉塞すべき運命にある血管として、隣接する大動脈や肺動脈などの大血管には見られない血管構造と機能を有していることに注目し、その分子機序の解明を目指している。本研究では、「動脈管の分化・成熟を制御する分子機序を詳細に解明すること」を最終目的としており、平成28年度は以下の研究成果を得た。 我々は、グラム陰性菌細胞膜の構成成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide: LPS)を母体に投与し、絨毛膜炎をおこすことによって、新生仔動脈管閉鎖遅延モデルを作成した。LPSによる胎内感染ラット新生仔動脈管では、TNF-α及び誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible nitric oxide synthase: iNOS)の発現が上昇していた。さらに、NOS阻害剤であるL-NAMEは、LPSの母体内投与による動脈管閉鎖遅延を改善した。これらの結果から、胎内感染による動脈管閉鎖遅延には、一酸化窒素シグナル伝達経路が働いていることが強く示唆された。敗血症のような新生児感染症と動脈管閉鎖遅延との関連は、これまで多くの論文で示唆されていたが、感染による動脈管閉鎖遅延の分子機序は、あまり報告されていなかった点で、本研究は胎内感染では、 iNOSが、動脈管の閉鎖遅延に関与していることを示した点で意義深い。
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