研究課題/領域番号 |
26293259
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70335256)
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研究分担者 |
佐々木 貴史 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70306843)
天谷 雅行 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (90212563)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 表皮恒常性 / タイトジャンクション / 各層 / ターンオーバー / 上皮組織 |
研究実績の概要 |
表皮では角質層と顆粒層タイトジャンクション(TJ)が物理的バリアを構築する一方、ランゲルハンス細胞がTJバリア外から抗原取得を行うことを我々は明らかにし、外界と生体を区切るバリアとしての皮膚の本質的な役割の解明に大きく貢献してきた。TJバリアの恒常性を維持することは、正常な角質バリアの形成に不可欠であり、すなわち我々の身体を外界から守る上で必須である。しかし、常にターンオーバーする重層上皮組織において、ただ1層しか存在しないTJバリアの恒常性をどのように維持するのか、その分子メカニズムは不明のまま残されている。本研究では、In vivoライブイメージング技術によりZO-1/venusトランスジェニックマウスの皮膚の観察をおこない、ダイナミックに形成・消失を繰り返す動的なバリアとして、表皮TJバリアの動態メカニズムを解析した。 まず、重層上皮において細胞がTJバリアを通過する際には、TJのハニカム模様において、ひとつひとつのTJの六角形の内側に、新しいTJの六角形が出現し(その結果、二重の六角形が出現し)、その後、古い外側の六角形が消失することにより、細胞が1つずつTJバリアの内側から外側へと、TJバリアの恒常性を保ったまま移動することを明らかにした。次に、この細胞の移動を可能にする表皮の構造がどのようなものであるかを解析した。驚くべきことに、重層上皮シートである表皮において、TJを形成する細胞の基本的な形は、これまでに考えられてきた六角柱ではなく、ケルビン14面体であった。さらに、ケルビン14面体の積み重ね構造として表皮を捉えると、TJバリアの恒常性のみならず、細胞間接着を保ち物理的な頑丈さを保ったまま、表皮細胞をターンオーバーさせるメカニズムが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.表皮TJバリアの恒常性維持機構の解析 ZO-1/venusトランスジェニックマウスの耳皮膚のライブイメージング解析を行った。その結果、重層上皮において細胞がTJバリアを通過する際には、TJのハニカム模様において、ひとつひとつのTJの六角形の内側に、新しいTJの六角形が出現し(その結果、二重の六角形が出現し)、その後、古い外側の六角形が消失することにより、細胞が1つずつTJバリアの内側から外側へと、TJバリアの恒常性を保ったまま移動することが明らかとなった。さらに、その二重のTJが形成されるメカニズムとして、3つの細胞が触れ合うトリセルラー接着構造に形成されるトリセルラーTJを利用した、巧妙な仕組みがあることを見出した。 2.顆粒層の各分化段階特異的な細胞の単離方法の確立 顆粒層の細胞を単離する方法を確立した。その結果、TJを形成するSG2層の細胞を特異的に単離して固定・染色し、観察することが可能となった。特筆すべきことに、SG2層の細胞は、単離しても単層上皮細胞のように球形にまるまらず、平板な形状を保っていた。これはケラチン細胞骨格により、角化前に細胞の形状が固定されていることを意味している。さらに、その基本三次元形状は、六角柱ではなく、縦方向に押しつぶされたケルビンの14面体であった。このことから、表皮顆粒層の立体形状が、六角柱の積み重ねではなく、ケルビン14面体の積み重ねであると考えられる。さらに、この新しい表皮構造の概念を導入すると、これまでの六角柱モデルでは説明がつかなかった表皮TJの立体形状やTJハニカムの各六角形の大きさの規則性が説明可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
1.表皮TJバリアの恒常性維持機構の解析 これまでの解析により、表皮TJバリアの恒常性を維持するメカニズムが、表皮細胞1つ1つの形(平たいケルビン14面体)と、その14面体の積み重なりにより形作られるスタック構造に大きく依存していることが明らかとなってきた。さらに、細胞がTJバリアの内側から外側へと移動するときに作られる、新しいTJの六角形がトリセルラーTJにより構成されることが明らかになった。このメカニズムが機能するためには、新しいトリセルラーTJによる六角形がバリア機能を備えていることが必要である。そこで、28年度は、このトリセルラーTJの六角形のバリア機能を解析する。また、ケルビン14面体のスタック構造として表皮を捉え、そのターンオーバー機構をコンピュータシミュレーションすることにより、表皮のターンオーバーモデルを確立する。さらに、そのターンオーバーモデルと実際の観察結果とを対比させることにより、各細胞がどのように周囲の細胞と協調して表皮の恒常性を維持しているか、表皮ターンオーバーを規定している協調機構を解析する。 さらに、表皮のターンオーバーを加速するような実験条件(乾癬モデルなど)において、TJの内側から外側へと移動する細胞数が増えた場合、どのようにTJバリアの恒常性維持機構が対応するのかを解析し、その現象をコンピューターシミュレーションにより再現することで、表皮の恒常性維持機構を解析する。 2.顆粒層の各分化段階特異的な遺伝子発現の解析 SG1細胞で高発現する因子について、その発現タイミングとTJバリアのターンオーバーに必要な細胞の分化タイミングを解析し、TJバリアのターンオーバーと角化のメカニズム、そのタイミングの協調について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の後半は、論文の作成とコンピューターシミュレーションの準備に集中したため、いわゆるwetの実験量が減り、研究費の使用量が全体的に少なくなったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、顆粒層の各層の発現分子の細胞生物学的・分子生物学的解析を進める予定であり、wetの実験量が増えるが、この次年度使用額により対応できると考えられる。
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