研究課題/領域番号 |
26293271
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
細井 義夫 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50238747)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線 / mTOR |
研究実績の概要 |
近年、低酸素/低栄養状態などに反応して細胞増殖を停止させてautophagyを活性化させるための中心的な役割を担うmTORが、放射線感受性に関与していることが報告されている。これまで、低酸素は放射線抵抗性の原因として多くの研究がなされてきたが、低栄養に関してはこれまで放射線感受性との関係で研究は行われてこなかった。本研究では、低栄養状態での放射線抵抗性に対するmTORの関与を明らかにし、癌幹細胞等の低酸素/低栄養状態での放射線抵抗性を選択的に解除する分子標的を探求することを目的とする。申請者らは培養ヒト肝癌細胞であるHepG2細胞およびHuH6細胞が、低栄養状態で培養することによりmTORが活性化する事を新たに見出した。また、肝癌細胞は低栄養状態で放射線高感受性となった。トランスフォームした正常線維芽細胞LM217では低影響状態でmTORは不活性化し、放射線抵抗性が誘導された。これらの研究成果は論文として発表した(Murata Y., Uehara Y., Hosoi Y. BBRC 468: 684-690, 2015.)。ヒトの癌では低酸素状態と低栄養状態が同時に起こっているものと思われるため、低酸素状態+低栄養状態が放射線感受性に及ぼす影響をHepG2細胞とLM217細胞を用いて解析した。その結果LM217細胞では低酸素状態単独に比べ低酸素状態+低栄養状態ではより放射線抵抗性になることが明らかとなった。これに対して低栄養状態でmTORが活性化するHepG2細胞では低酸素状態単独に比べ低酸素状態+低栄養状態ではより放射線感受性となった。これらのことからmTORが放射線感受性に影響を与えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの低栄養状態における細胞の放射線感受性とmTORの関係に関しては予想以上の成果を得る事ができた。すなわち、低栄養状態がmTORに及ぼす影響と放射線感受性との関係について、低栄養状態によりmTORが活性化する細胞を見つける事ができたため、低栄養状態がmTORと放射線感受性に及ぼす影響を解明することができた。これらの研究結果を論文としてまとめ、公表する事ができた(Murata Y., Uehara Y., Hosoi Y. BBRC 468: 684-690, 2015.)。生体内では低栄養状態と低酸素状態は必ず同時に起こる。低酸素状態では放射線抵抗性であることが知られているが、低酸素状態に低栄養状態を加えるとLM217細胞では、さらに放射線抵抗性になることが明らかとなった。低酸素状態の放射線抵抗にmTORが関与しているかどうかを明にするためにsiRNAを用いてmTORをノックダウンしたところ、LM217では低栄養状態による放射線抵抗性が消失した。現在はさらに、mTORの上流にあるAMPKが放射線感受性に関与するかどうかについて検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、低栄養状態がmTORを介して放射線感受性に及ぼす影響を明らかにすることができた。今後は、低栄養状態および低酸素+低栄養状態が放射線抵抗性を誘導する機序や、。 (1)低酸素+低栄養状態におけるHIF-1の発現抑制の機序解明 低酸素により誘導される転写因子HIF-1は、低酸素による放射線抵抗性の原因と考えられてきた。また、その阻害剤を用いて低酸素による放射線抵抗性を解除し放射線増感しようとする試みがなされてきた。しかし、我々の実験結果では低酸素状態ではHIF-1のタンパク質量は増加するが、低酸素+低栄養状態では逆にタンパク質量は強く抑制される事が明らかになった。この事は既に報告がなされていたが、低酸素+低栄養状態でHIF-1の発現がほぼ消失する機序に関しては明らかになっていない。これまでに一部の活性酸素の状態が低酸素・低栄養によるHIF-1。 (2)低栄養および低酸素+低栄養状態による放射線抵抗性誘導の原因解明 これまでに、肝癌細胞以外の細胞では低栄養状態は細胞を放射線抵抗性に導くことが明らかになった。放射線抵抗性誘導には、mTORとAMPKが関与している事を明らかにしつつあるが、どのような機序により放射線抵抗性が誘導されるかの具体的な情報伝達経路は明らかでない。放射線抵抗性が誘導されるためには、DNA2重鎖切断修復機構か活性酸素除去機構のどちらかが変化してるはずである。今後は、低栄養や低栄養が放射線抵抗性を誘導する情報伝達経路を明らかにするための研究を行って行く予定である。当初はmTORとAMPKをsiRNAでノックダウンし、それによる変化から情報伝達経路を探索する。予備的実験ではmTORとAMPKがDNA2重鎖切断修復酵素を修飾していることを明らかにしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、抗体、ウエスタン関連試薬、培養用試薬、培養用ピペット等について、研究室にあったものを用いたため、新規購入が少なくなった。また、特に新規の機器を買う必要もなく、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
低酸素状態を確認するために、酸素濃度測定機器を使っているが、酸素濃度測定機器が測定寿命となり、亢進が必要となっている。また、低酸素培養用のチェンバーも劣化が進み亢進が必要となっている。これらの機器を修理・購入する必要がある。また、低栄養や低酸素での放射線抵抗性に関与するための多くの分子標的が明になりつつあるが、それらの発現をsiRNAでノックダウンすることが必要となっており、多くの経費が必要となる。さらに、低酸素・低栄養によりタクパク質の発現が修飾されていることが明になっている。それらの一部はmRNA量に変化はなく、miRNAによる制御が示唆されている。miRNAの関与の証明には、多くの経費を必要とする。
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