研究課題
これまでの研究を通して我々は、放射線治療を生き延びたがん細胞の一部が“酸素ホメオスタシス制御因子HIF-1”の活性を獲得し、がんの再発を導くことを報告してきた。様々ながん種を対象にした臨床試験においても、HIF-1 の活性と放射線治療後の生命予後不良との相関が確認されている。これらの知見を基に本研究は、HIF-1 の活性化を介して放射線治療後の再発に影響を与える遺伝子ネットワークを解明し、これを新たな治療法の確立に繋げることを目的としている。平成26年度は当初の計画に従って、HIF-1活性化因子の遺伝学的スクリーニング法を通して、新規のHIF-1活性化因子を4つ同定することに成功した。そのうちの1因子であるIDH3が、HIF-1の活性化を介してがん細胞の糖代謝経路を解糖系優位な状態にリプログラミングし、腫瘍増殖を亢進することを証明した。また、UCHL1という因子がHIF-1αタンパク質の脱ユビキチン化を介してHIF-1を活性化し、がんの遠隔転移を亢進することを証明した。平成27年度に予定されていた臨床検体を用いる研究にも着手し、IDH3やUCHL1の発現ががん患者の生命予後不良と相関することも確認することが出来た。これらの結果はIDH3やUCHL1を新たな治療標的とし得ることを示しており、本研究によって新たながん治療法の確立に向けた大きな成果が得られたと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
予定通りに新規のHIF-1活性化因子を計4つ同定することに成功し、各々の作用機序の解析を進めることが出来た。それに加え、予定を前倒しして当初平成27年度に予定していた臨床検体を対象とする研究にも着手し、IDH3とUCHL1の発現量ががん患者の生命予後不良と相関することを確認することも出来た。総じて、当初の計画を上回って研究が進展したと自己評価した。
1) 酸素ホメオスタシスを担う遺伝子ネットワークの解明: これまでに解析を進めてきたIDH3やUCHL1の他、平成26 年度に見出した全ての新規HIF-1活性化因子を対象に、各々がHIF-1 を中心とするがん細胞の酸素ホメオスタシスを制御する分子機構を解析する。具体的には、HIF-1 活性、HIF-1αプロモーター活性、HIF-1α遺伝子の翻訳開始効率、HIF-1α蛋白質の安定性、HIF-1αのtrans-activation 活性のそれぞれをルシフェラーゼ発光強度として定量するレポーター遺伝子を用いて、各新規遺伝子が如何なる作用点でHIF-1 を活性化するのかを同定する。そして、各遺伝子の作用点に応じて、Western blotting やquantitative RT-PCR、免疫沈降法等の実験を適宜組み合わせて、作用機序解析を行っていく。2) 新規HIF-1 活性化因子の治療標的としての有用性の確認と標的薬の開発: これまでの研究で申請者は、各HIF-1活性化因子を過剰発現した場合にがん細胞のHIF-1 活性が亢進し、HIF-1 依存性レポーター遺伝子5HREp-luc から生じるルシフェラーゼ発光量が増加することを確認してきた。この成果を出発点として本研究では、新規HIF-1活性化因子の発現ベクターと5HREp-luc レポーター遺伝子の双方を安定に組み込んだ細胞株を樹立し、新規HIF-1活性化因子 の阻害を介してルシフェラーゼ発光量を低下させる低分子化合物をスクリーニングする。3) HPFs 阻害剤の薬効評価: 2 で得た新規のHPFs 阻害剤の放射線増感効果を、in vitro のコロニー形成試験や、in vivo の腫瘍増殖抑制試験で評価する。また、これまでの研究で申請者らが構築してきた「移植腫瘍内のHIF-1 活性」や「DNA 損傷部位)」を光としてイメージングする系を活用し、放射線増感効果の評価に役立てる。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件) 備考 (3件)
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