研究課題
本研究は、申請者らのグループが開発した新規の間葉系幹細胞(mesenchymal stem/stromal cells, MSC)樹立法と造血幹細胞増幅技術を用いて、高線量放射線被ばく後の急性放射線症候群および晩発性放射線障害に伴う臓器障害全般に対する包括的な細胞治療法を開発することを目的としている。本年度は急性放射線障害に対するMSCの治療効果を評価するためのマウスモデル作成の準備を進めるとともに、主に放射線被ばくがMSCの分化能、造血支持能、血球系列決定能等に与える影響の検討を実施した。特筆すべき成果としては、ヒト骨髄由来MSCの造血支持能がparathyroid hormoneによって増強されることを見いだすことに成功するとともに(Yao H, et al. Stem Cells 2014)、ヒトMSCは放射線被ばくを受けるとその線量依存的に増幅能、骨・脂肪分化能の低下を示し、それにもかかわらずCD34陽性造血前駆細胞の支持能を維持していることを明らかにした(Iwasa M, et al. manuscript in preparation)。興味深いことに、放射線被ばくを受けたMSCにおいては、B細胞分化を支持するサイトカインの産生能が減少しており、CD34陽性細胞との共培養を行うとそのB細胞分化を特異的に抑制した。現在、放射線被ばくによるMSCのサイトカイン産生能に変化を与えることに着目し、福島原発で問題にされている慢性低線量被ばくがMSCの機能に与える影響の検討を開始した。また、さい帯血バンク等に保管されているが使用される機会の少ない低細胞数のさい帯血ユニットからでも、十分な細胞数のMSCを効率的に誘導調整可能な培養方法を開発した(Yoshioka S, et al. submitted)。
2: おおむね順調に進展している
従来知られていなかった新知見として、放射線照射がヒト骨髄由来MSCの増幅能や分化能、系列特異的な造血細胞分化支持能に与える影響を初めて明らかにした点は十分に評価できるものと考える。MSCの治療効果を検討するための動物実験の準備も整いつつあり、研究全体の進捗状況はおおむね順調と考えられる。
これまでの成果に基づき、二大学間での共同研究体制を強化するとともに、動物実験を円滑に推進するための実験環境を整備していく。特に、高線量放射線照射による造血障害・消化管障害に対する造血幹細胞・MSC共移植の有効性の検証とそのメカニズムの解明に加え、骨髄障害を伴わない皮膚放射線障害に対する同所的・異所的MSC移植の有効性を明らかにしていくことを大きな目標とする。また、本年度の研究によって明らかになった放射線被ばくが骨髄由来MSCに与える機能的影響が、さい帯血から誘導したMSCに対しても同様に認められるかについても検討を行っていく。
共同研究者の所属機関における大学院生の参画により、新規の実験補助員雇用の必要性がなくなり、人件費・謝金としての支出が行われなかったため。
実験に必要な生化学試薬の購入や学会発表資料の準備、論文投稿に要する費用などに使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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