研究課題
平成27年度には、胃癌患者由来の癌細胞に特異的に認められる遺伝子変異に対する免疫反応を網羅的に解析し、以下の結果を得た。1.胃癌患者(7名)由来の癌組織遺伝子解析から,癌特異的遺伝子変異(ミスセンス変異)が20 個 - 84 個(平均 57 個)同定された。 2.同定された変異配列に由来し、HLA結合性を有すると予測された30種類の長鎖ペプチドを合成し、健常者(18名)末梢血由来リンパ球における免疫原性を検討したところ、27種類(90%)のペプチドで特異的T細胞が誘導された。なお、CD8陽性T細胞を誘導する抗原は13種類(43%)、CD4陽性T細胞を誘導する抗原は21種類(70%)であったことから、遺伝子変異由来抗原はCD4陽性T細胞をより高頻度に誘導することが判明した。なお、これらのうち15種類(50%)のペプチドが複数の健常人に対して免疫原性を示したが、多数の健常者末梢血リンパ球に反応を示す免疫原性の高い抗原エピトープは同定できなかった。 3.変異配列への特異性を確認するために変異配列を含まない野生型ペプチドに対する反応性も検討したところ,現在までに解析可能であった8種類のペプチドの内5種類(62%)が変異配列のみに特異的に反応するT細胞を誘導した。 4.変異抗原の免疫原性の高さを評価するために、特異的T細胞の誘導効率を野生型抗原と比較したところ、ほとんどの変異抗原が野生型抗原より高いT細胞誘導効率を示した。以上の結果から、癌特異的遺伝子変異由来の新規抗原の免疫原性の高さが証明された。
2: おおむね順調に進展している
胃癌遺伝子変異由来抗原の網羅的解析により、遺伝子変異の免疫原性の高さが証明された。これまでの研究結果から遺伝子変異を標的とした免疫治療の科学的妥当性が明らかとなりつつあり、おおむね順調に進展していると判断する。
平成27年度に引き続き、遺伝子変異由来抗原の網羅的解析を実施する。具体的には、、1.引き続き、すでに解析中である胃癌患者(7名)由来の癌細胞に特異的に認められる遺伝子変異に由来し、HLA結合性を有すると予測されたペプチド候補をさらに追加で合成し、変異遺伝子由来の新生抗原の免疫原性を癌患者、健常者由来(各5-10名)のリンパ球を用いて網羅的に解析する。特に、多数の健常者・癌患者で免疫原性を示す抗原エピトープを同定する。2.癌種によって得られる解析結果が異なる可能性もあるために、大腸癌患者(5名)由来の癌細胞に特異的に認められる遺伝子変異に由来し、HLA結合性を有すると予測されたペプチド候補の免疫原性を癌患者、健常者由来(各5-10名)のリンパ球を用いて網羅的に解析し、免疫原性の高い抗原エピトープを同定する。3.免疫原性の高い抗原エピトープが同定された場合には、癌細胞表面での発現をMass spectrometryにより検証する。これらの検討により、“遺伝子変異を標的とした個別化癌免疫治療”を臨床応用するための知的・技術的基盤の確立を目指す。
平成27年度には、30種類のペプチドを合成し遺伝子変異由来抗原の網羅的解析を実施したが、当初の予想を超えて免疫原性を示すペプチド数が多かったために、各ペプチドに対してより詳細な免疫学的解析の必要性が生じた。従って、新規ペプチドの合成時期を予定より少し遅らせたために、「物品費」の使用額が予定より少なくなり次年度使用額が生じた。
研究実績欄に記載した通り、平成27年度に購入した合成ペプチドの解析はほぼ終了した。従って、未使用の研究費は当初の予定通り新規ペプチドの合成に使用し、本年度中に研究を終了する予定である。
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