研究課題/領域番号 |
26293296
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大河内 信弘 筑波大学, 医学医療系, 教授 (40213673)
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研究分担者 |
千葉 満 弘前大学, 保健学研究科, 講師 (20583735)
村田 聡一郎 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (40436275)
松原 由美子 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (70365427)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝硬変 / 肝細胞癌 / 肝線維化改善 / 抗がん作用 / 肝再生 / 血小板 / トロンボポエチン / 経口血小板増多剤 |
研究実績の概要 |
・TPO製剤(エルトロンボパグ)の血小板増加モデル開発:前年度に引き続き、筑波大学生命科学動物資源センターにて作成したヒトCD110(TPO受容体)を有する遺伝子改変マウス(BAC DNA)繁殖させ、慢性肝硬変モデルのような慢性実験に供するよう準備を進めた。 ヒトCD34陽性骨髄幹細胞から巨核球、血小板の作成:ヒトCD34陽性骨髄幹細胞をトランスフェリン無添加SF培地で培養し、rhTPOおよびエルトロンボパグそれぞれを添加し巨核球及び血小板を作成し、CD41抗体を用いて血小板数を検討した。その結果、ヒトCD34陽性骨髄幹細胞から作成した血小板産生効率も昨年と比べて改善することが出来ず(産生効率20%))、その結果人血小板の代替えするものにはならないと最終的に判断した。 ・エルトロンボパグの抗腫瘍効果の検討:エルトロンボパグは鉄キレート作用をもっており、肝細胞癌は鉄キレート剤でその増殖が抑制されることが報告されている。昨年に引続きin vitroの系で、ヒト肝細胞癌細胞株にエルトロンボパグを添加し、抗腫瘍効果を検討した。その結果、いずれの肝細胞癌細胞に対してもエルトロンボパグが抗腫瘍効果を持つ現象を明確に示すデータをとった。 ・エルトロンボパグの肝細胞癌に対する抗腫瘍効果のメカニズムの検討:肝癌細胞株にクエン酸鉄アンモニウム(FAC)を添加し鉄補充をすることでエルトロンボパグの抗腫瘍効果がキャンセルされることを確認し、International Journal of Oncologyに投稿し、掲載された。加えて、ヒト肝細胞癌細胞株にエルトロンボパグを投与すると、細胞周期のG2/M期の細胞が減少し、G0/G1期でのcell cycle arrestが生じていることを確認し、メカニズムとしてcell cycle arrestによることを明らかにした。加えて、現在臨床で肝細胞癌の唯一の治療薬として用いられているソラフェニブとの併用による抗腫瘍効果について検討を行った。 ヒト探索的臨床試験の準備:以上述べた研究結果から肝硬変、慢性肝炎合併肝細胞癌の患者に対する経口TPO製剤の探索的臨床試験を開始するためのプロトコールづくりに着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・ヒトTPO受容体を有する遺伝子組み換えマウスの開発;ヒトTPO受容体をマウスに発現させた遺伝子組み換えマウスの作成に成功したが、しかし、今年度繁殖に力を入れたものの、肝繊維化モデル作成に供する数の確保ができなかった。 ・エルトロンボパグによって産生された血小板によるヒト肝星細胞抑制効果の検討;前年度ヒトiPS細胞から分化誘導した巨核球にエルトロンボパグおよび既存のTPO 製剤を作用させて血小板を産生させることに成功した。条件の詳細な検討を行ったがiPS細胞から血小板産生数を増やすことが出来ず、予定されていた抗繊維化作用の効果検証実験を行うことは出来なかった。 ・エルトロンボパグのヒト肝細胞癌株に対する抗腫瘍効果のメカニズムの検討;エルトロンボパグの肝細胞癌に対する抗腫瘍効果は、鉄キレート作用によるcell cycle arrestであることを明らかにした。その結果は国際雑誌International Journal of Oncologyに掲載された。肝細胞癌に対する唯一の抗癌剤であるソラフェニブとの併用効果を検討し相加効果が認められる濃度を決定した。
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今後の研究の推進方策 |
・ヒトTPO受容体を有する遺伝子組み換えマウスの開発;作成した遺伝子導入マウスを繁殖させ、肝線維化モデルを作成しTPOまたはエルトロンボパグを投与、抗線維化効果を比較検討する。 ・エルトロンボパグによって産生された血小板によるヒト肝星細胞抑制効果の検討;エルトロンボパグによりヒト体内で造られた血小板は、通常の機序で産生された血小板とは機能が異なることが、我々の探索的臨床研究で明らかとなった(未発表)。この2種類の血小板の作用機序に関して、次年度血小板の表面糖鎖の解析を行い、活性化の有無とそのメカニズムの解析を行う。より効果的かつ効率的にヒト血小板を作成するために血小板の産生効率の悪いiPS細胞にかわって、分化能に優れているヒト胎盤由来幹細胞を分離培養し、巨核球への分化誘導条件を検討する。今年度はヒト胎盤より4種類の幹細胞を分離培養する主義を確立した。今後はこれらの幹細胞から分化誘導した巨核球にエルトロンボパグおよび既存のTPO 製剤を作用させて血小板を産生させることを目指す。最終的には、エルトロンボパグによって産生された血小板が肝星細胞の増殖およびα-SMAの発現に抑制的に作用することが可能か検討する。 ・TPO製剤の抗腫瘍効果の検討:TPO製剤による血小板増多が肝細胞癌の発癌、ならびに腫瘍増大にどのような効果をもたらすか検討するため、我々の研究室で独自に作成した臨床のNASHに非常に近いマウスNASHモデルを用いて発癌実験を行い、その過程で血小板による腫瘍発生、増殖抑制効果をvivoの実験系で検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度実験におけるエルトロンボパグのヒト肝細胞癌株に対する抗腫瘍効果のメカニズムの検討に関しての実験が順調に進んだ。一方で、ヒトTPO受容体を有する遺伝子組み換えマウスの繁殖が28年度に繰り越され、ならびに血小板のソースとしてiPSにかわってヒト単板由来幹細胞にスイッチしたことから血小板によるヒト肝星細胞抑制効果の検討が次年度に繰り越されたため172万円を次年度の研究費に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
実験計画に示してあるヒトTPO受容体の遺伝子導入マウスの繁殖、ヒトiPS細胞とヒト胎盤由来幹細胞からの巨核球及び血小板作成実験、naiveな血小板とTPO投与により増加した血小板の機能の相違、ヒト肝癌細胞株を用いたin vitroの実験等に各々振り分けて使用する。
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