研究課題/領域番号 |
26293304
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
井本 逸勢 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (30258610)
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研究分担者 |
丹黒 章 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (10197593)
高山 哲治 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (10284994)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゲノム / オミックス / 分子プロファイリング / ゲノム編集 / 食道癌 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
食道扁平上皮癌(ESCC)において、オミックス解析と分子プロファイリングにより腫瘍内の不均一性を検出し、シミュレーションや実験モデルによる検証を加えることで、治療抵抗性・再発・転移を克服して治療法の最適化に取り組むための研究を推進し、以下の成果を得た。
1.ESCC臨床例からの検体、臨床情報収集:平成27年度には、全期間内に予定していた検体数(150例)を超えて手術標本や血漿セルフリーDNA(cfDNA)を収集できた(200例)。目標としていたcfDNAの経時的収集は進んだが、転移巣や原発巣多点からのサンプリングは平成27年度も限られた。このため、胃癌など他の癌もモデル系に含めるべく、cfDNAの採取などを進めた。 2.ESCC臨床例の統合オミックス情報取得:計画に従い取得手術標本のオミックスデータと液体生検のデータの比較検討によるゲノム・エピゲノム変異の変化を経時的に捉え、手術・化学療法などの治療、転移によるクローン選択や競合の経過を再構成した。ESCC以外の癌でも検討を行った。情報量や解析可能例数が限られたことから、特定の治療による癌細胞の変化の予測モデルの開発には至らなかったが、変化を検出し再発や治療効果予測を行う系の構築は可能であることが確認された。 3.ゲノム編集による不均一性モデルでの治療効果シュミレーション:平成26年度に検討したCrispr/Cas9法を用い、ESCC細胞株に臨床検体で検出された様々な変異を導入したクローン作製を進め、薬剤感受性など表現型の違いを定性・定量的に検討した。この際、平成26年度の成果をもとに計画したとおり、均一なクローンに至る前のクルードな状態の細胞集団でも表現型検討を行い、薬剤暴露や低酸素暴露による特定クローンの選択が生じうることを確認でき、擬似モデル構築の可能性を検討できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のごとく、各項目については平均しておおむね目標を達成して計画を推進することが出来たことから、区分(2)とした。 1.ESCC臨床例からの検体、臨床情報収集:多点からの検体収集はまだ予定数を達成できていないが、臨床検体は既に新規予定例を超えて収集でき、経時的な反復血漿収集(cfDNA)も進めることが出来た。ESCCを補いあるいはValidationするためのモデルとして、他の癌種でも検討できている。 2.ESCC臨床例の統合オミックス情報取得:エクソーム、DNAメチル化、RNA-seqなどは、公的データベースの情報利用も取り入れてコストを抑えて効率よく解析できた。平成26年度に引き続き、血漿収集が系統的に進んだ胃癌をモデルに不均一性の血漿cfDNAでの検出の最適化を行うことが出来た。 3.ゲノム編集による不均一性モデルでの治療効果シュミレーション:平成26年度の基礎検討の成果に基づき、実際に多種のクローン作製と表現型解析に進むことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
各症例において検出される変異やその組み合わせパターンは、予想より多彩であり、これは近年のESCCのエクソームや全ゲノム解析の報告からも裏付けられている。このため、共通したクローン進化パターンを決定しその経過中の変化を治療や進展パターンから予測することが困難であると予想された。 このため、ベースラインの変異パターンを基盤情報として変化予測とその検出に的を絞り、多数症例からターゲットリシーケンス情報を追加で収集するとともに公的データベースの情報も用いて、多変量解析による変化パターンのシミュレーションモデル作成を行っていく。 ゲノム編集による不均一性モデルの作製に関しては、平成27年度の成果を踏まえて、Crispr/Cas9技術を用い一度に複数の変化を導入することで形成される多彩なクローンから構成された擬似不均一性細胞集団に着目し、これに様々なかく乱を作用させた場合の変異パターンの質的・量的変化を検討することで、効率的な実験モデルの迅速評価系とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に計画した食道扁平上皮癌(ESCC)の検体収集と解析に関して、組織検体については収集が主となり、オミックス解析はより解析項目が少ない血漿検体を先行して行った結果、コストが予測より低くなった。さらに、組織に関しては公的データを利用して効率よくオミックスデータ収集を行った結果、研究の遂行に支障なくコストを節約出来た。 一方、ゲノム編集によるESCC細胞株への変異導入やクローンの機能解析に関しては、多数のクローンが樹立できたために、機能解析に必要な設備・消耗品のコストが増した一方で、クローン作製に要するコストが技術の進歩により安価ですんだことから、樹立段階のクローンが多い平成27年度中は、総コストが低い状態で計画を遂行することが出来た。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、27年度までに収集した多点組織検体のオミックスデータ収集のための解析ならびにこれまで検出した変異を対象にしたターゲットリシーケンスを多検体で行うことを予定しており、これに必要な試薬・消耗品ならびに共通機器使用料(次世代シーケンサーおよびマイクロアレイ)への使用を計画している。また変異の蓄積と外部からのかく乱によるクローン選択のシミュレーションを行う計算量によっては、計算機(スーパーコンピューター)の共通利用が必要になる可能性がある。 一方、ESCC細胞株を用いた検証実験は、樹立した混合細胞集団を用いた機能解析を、抗癌剤、低酸素、長期培養などの各種刺激への暴露前後で行うことから、大量のサンプルの処理が見込まれ、そのための培養関連試薬・消耗品への使用を予定している。
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