研究課題
(背景と目的)癌幹細胞は、自己複製能と多分化能を持ち、癌の増殖や浸潤だけでなく、転移再発にも大きな役割を担っていると報告されている。近年、オートファジーが癌細胞の生存に大きくかかわることが報告されているが、癌幹細胞におけるオートファジーの意義に関する報告は少ない。今回、我々は胃癌細胞株を用いて、癌幹細胞が多く存在するSide Population (SP)分画を分離し、癌幹細胞におけるオートファジーの意義を検討した。(対象と方法)胃癌細胞株OCUM12を用いて、FACScanにてSP分画をソーティングし、OCUM12/SPとした。OCUM12/SPにおけるオートファジー関連分子LC3A、LC3B、mTOR、ULK1発現をRT-PCRにより親株OCUM12と比較検討した。癌細胞のオートファジーをLysotrackerを用いた蛍光顕微鏡により評価した。また、癌細胞の酸化ストレス(ROS)状態を評価した。OCUM12/SPを用いてオートファジー抑制剤(クロロキン)による細胞増殖抑制効果についても検討した。(結果)OCUM12/SPは親株OCUM12に比し造腫瘍性や転移能が高く、癌幹細胞が多く含まれていることが示めされた。このOCUM12/SPは、オートファジー関連分子LC3Aの発現が高く、オートファジーが亢進していた。また、OCUM12/SPはROS産生が抑制されており、酸化ストレスによりオートファジーが誘導された。クロロキンを用いてオートファジーを抑制することによりOCUM12/SPの増殖が有意に抑制された。(結論)癌幹細胞の増殖には酸化ストレスやオートファジーが関連しており、オートファジーを抑制することにより癌幹細胞の増殖や転移が抑制されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度に予定していた検討項目は下記の2項目である、①スキルス胃癌幹細胞のオートファジーについて癌幹細胞様Side Population (SP)細胞を用いて明らかにする。②低酸素、低栄養、酸化ストレス環境に対し、オートファジーの誘導をnon-SP細胞と比較検討する。さらに線維芽細胞共培養系を用い、ストレス環境において、スキルス胃癌幹細胞のオートファジーにおよぼすニッチ線維芽細胞の影響を解析する。上記の研究実績の概要に示した如く、これらの検討が施行され、癌幹細胞の増殖には酸化ストレスやオートファジーが関連しており、オートファジーを抑制することにより癌幹細胞の増殖や転移が抑制されることを示唆することが出来た。
今後の研究は以下の予定である。胃癌臨床標本を用いてオートファジー関連分子のLC3、Beclin-1、p62の発現を検討することにより、胃癌におけるオートファジーの臨床的意義を明らかにする。また、平成26年度に解析された癌幹細胞オートファジーの結果に基づいて、スキルス胃癌幹細胞のオートファジーを制御する治療薬の開発を検討する。
次年度の実験(ウエスタンブロット、免疫染色)に使う抗体や消耗品の経費がやや高額と算出されたため、次年度使用額が生じた。
オートファジー阻害剤(3-メチルアデニン、バフィロマイシンA)を用いた癌幹細胞の治療開発:癌幹細胞MAPK系(pERK)およびPI3K系(p-Akt)への影響やLC3、Beclin-1、p62の発現ををWestern blottingにて検討する。胃癌600例の手術標本パラフィン包埋切片を用い、抗LC3抗体、抗Beclin-1抗体、抗p62/SQSTM1抗体による免疫組織学的染色。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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