研究課題/領域番号 |
26293310
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
海野 直樹 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (20291958)
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研究分担者 |
山本 尚人 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (80402262)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リンパ浮腫 / 線維化 / リンパ管造影 / 病態動物モデル |
研究実績の概要 |
我々はラットを用いて実験を行い、ヒトの二次性リンパ浮腫と病理学的に極めて酷似した動物モデルの作製に取り組んだ。ラット下肢のリンパ流をIndocyanine green (ICG)蛍光リンパ管造影にてリアルタイムで描出し、すべてのリンパ路を完全郭清することにより下肢のリンパ路を遮断した。この方法により、二次 性リンパ浮腫と同様な病理学的変化、すなわち急性期の浮腫、亜急性期から慢性機にかけての脂肪組織の増加、 亜急性期から慢性期に継続的に進行する組織の線維化を来していくかどうかを検証した。国際リンパ学会の進行度分類では、浮腫が顕著なStage 0、慢性炎症、液体貯留・細胞浸潤を認めStage I、浮腫・脂肪増生、線維化の始まりを認めるStage II、著明な脂肪沈着・皮膚硬化を認めるStage IIIに分類されている。そこで我々の作製したモデルラットの病態がどのstageに相当するかを検証した。線維化の進行の評価は組織学的検討だけではなく、超音波顕微鏡による組織硬化度の定量化を行った。本法は超音波(120MHz)が組織標本中を通過する際に 、硬い組織を通過するほどスピードを増すことを利用し、組織の硬度を定量的に評価する方法である。その結果、下肢のリンパ路の徹底郭清により、まず手術直後の急性期には下肢の体積は約2倍に腫脹し炎症細胞の浸潤、ICGリンパ管造影上でも下肢全体にdermal backflow signを呈するリンパ浮腫を発症させることに成功した。これまで6ヶ月の長期にわたり観察を続けたラットでは、組織学的に同様の所見が認められ、ヒトに類似した変化が認められた。これらに対して超音波顕微鏡による組織硬化度測定を開始した。まだ少数のラットでの検討であるが、超音波顕微鏡の観察でも、組織の硬度は継続的に増加しており、線維化の継続的な進行が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に申請時に計画した動物モデルの作製が順調に成功し、これまでのところヒトの病態に極めて酷似している。第二にその評価方法でkeyとなる組織超音波硬度測定法を確立することができ、時系列に沿って、線維化の程度を定量的に計測することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
現段階では、6ヶ月の長期にわたり観察し得た個体群は少数なので、今年度はモデルをさらに作製して、長期にわたる観察群を増やし、慢性リンパ浮腫の動物モデルとして、確かな検証を行う。さらに、本研究の主目的であるリンパ浮腫の病態メカニズムを探求する。とりわけ、急性期に出現する炎症細胞の種類とその役割、また慢性かつ持続的に進行する脂肪増生と線維化のメカニズムについて、病理学的に検討を行う。特に繊維化については、肺線維症や、肝硬変などの他臓器における線維化メカニズムを参照し、key mediatorとしてTGF-βに着目して検討を行う予定である。線維化の過程で、TGF-βのtargetとしてmacrophage、fibroblast、myofibroblastなどの細胞が注目され多くの研究がなされているが、リンパ浮腫でも同様のメカニズムが存在するかを検証する。またリンパはリンパ管の自律的な収縮力によって末梢から体幹へと運搬されるが、このポンプ機能が繊維化によりどのような影響を被るかをリンパ圧を測定して検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物モデルの作製にあたり、とりわけ6ヶ月以上観察が必要な動物群の作製が遅れたため、これら動物から採取した組織標本に行う予定であった免疫組織抗体の購入が次年度となった。
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次年度使用額の使用計画 |
現段階においては、6ヶ月以上観察群の動物モデルも順調に作製されつつあり、本年度はこれらモデルに対する病理学的検討を各種target moleculeに対する免疫組織抗体を購入して、検討を行う予定である。またリンパ管の収縮能、すなわちポンプ圧を測定しうる実験系の確立に本予算の一部を当てる予定でいる。
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