研究課題
神経膠腫の治療または自然経過による腫瘍進化の基盤となっている分子遺伝学的変化を同定するため、これまで施行してきた、網羅的ゲノム配列解析(エクソームシークエンス)やゲノムワイドメチル化解析(Infinium beadchip)に加え、新たな手法でのオミクス解析を継続して施行した。また、同一腫瘍内の複数箇所から検体サンプリングを行い、遺伝子変異の腫瘍内比較解析をすることで、グリオーマ単一腫瘍内のゲノム進化が branched evolution の様式で引き起こされていることが明らかとなった。この際、共通して認められる遺伝子変異はごく少数で、低悪性度神経膠腫に共通してみられるIDH1遺伝子変異の他、星細胞腫ではp53遺伝子変異、ATRX遺伝子変異が主なものであった。昨年に引き続き施行した、次世代シークエンサーであるIllumina HiSeq によるRNA シークエンシングの結果においては、神経膠腫悪性転化や腫瘍内悪性化進行に伴う遺伝子発現の変化につき検討を行った。初発時と比較して再発時に発現が変化する遺伝子を抽出し、オントロジー解析を行うことで、悪性転化に伴い発現が上昇する遺伝子は、細胞周期制御や有糸分裂に関連したものが多いことが明らかとなった。また、幹細胞に発現している遺伝子の発現上昇が認められることも明らかになった。これまで施行したオミクスデータの統合解析を行うことで、これら分子の発現亢進を認める腫瘍の多くで、ゲノムの脱メチル化とRB経路関連の遺伝子異常を認めており、これらの経路が新たな治療標的になる可能性が示唆された。
3: やや遅れている
当初計画にある、RNA-seqなどを予定通り進め、また、エクソームやメチル化解析も新たな検体について追加解析しつつ統合解析することで、悪性化シグナルプロファイルの抽出も進行している。また、神経膠腫以外の腫瘍の悪性化機構の検討も、比較対照として遺伝子発現解析やゲノム解析を施行している点は、おおむね順調といえる。これに対し、現在、これまでの研究にて同定された分子の機能を同定するため、低悪性度神経膠腫の細胞モデルを、アストロサイトへの遺伝子導入や、ヒトグリオーマ手術検体から樹立を試みているが、技術的に難渋しており、この点においてやや進行が遅れている。
今後、他院とも協力しつつ、さらに悪性転化の症例数を増やして、RNA-seqの他、Tab-ChIP解析など新たな手法も導入しつつ解析を進める。それと共に、抽出した遺伝子を、Sangerまたは、Target sequenceにて検証する。同定した悪性化関連分子の機能を解析するためのin vitro, in vivo のモデル細胞の開発については難渋しているが、遺伝子導入にCRISPR/CAS9システムや iPS細胞作成技術を導入するなど工夫を加える。そして、このモデル細胞、脳腫瘍幹細胞、脳腫瘍細胞株を用いて、同定した分子の機能解析から、治療薬同定へと繋げることが目標である。
悪性転化により発現が変化する遺伝子変異を引き起こす分子の in vivo, in vitro での検証を行うための細胞、動物モデルの作成に難渋しており、これによる検証実験が遅れているため。
これまでの予定通り、悪性転化前後の神経膠腫のペア(または3検体以上のセット)の継続的な解析を、新たなオミクス解析手法を取り入れつつ施行するとともに、そのデータを検証するための細胞・動物モデルを確立し、これらによる検証実験を行う。
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