研究課題
大型骨・軟骨欠損を対象とした画期的な次世代再生療法の開発のためには、iPS細胞による培養誘導技術を確立する必要がある。我々は、まず動物細胞を用いて、iPS細胞から間葉系前駆細胞へ分化誘導する培養環境条件の最適化を行い、高効率な誘導条件を決定するに至った。具体的には、EB形成を経ずに平面培養のみにより、無血清培地にて6種類のサイトカインと2種類の低分子化合物による段階的な培養誘導であり、2種類の異なる表面処理が施された培養皿の使用に加え、5%酸素濃度下で低酸素培養を段階的に併用する独自の分化誘導法を確立した。また、間葉系前駆細胞作製のためのさらなる効率化を目指し、マイクロアレイおよび次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析、トランスクリプトーム解析を行い、分化誘導法の評価のみならず新規の分化誘導候補因子の解析を行ってきた。現在、バイオインフォマティクスを駆使した新規候補因子の絞り込み、因子同定も同時に進めており、分化誘導培養および作製細胞に関する種々の評価法が整ったところである。また、ヒトiPS細胞への応用を考慮し、サイトカインを使用せず低分子化合物のみによる新たな分化誘導法について、マトリックスコーティングおよび低温プラズマ照射など、培養皿の各種表面処理を併用し最適化を行っている。さらに、iPS細胞から作製した間葉系前駆細胞の組織再生能と安全性を評価するため、NOGマウスやヌードマウスを用いて実験動物への細胞移植を行い、骨組織再生能および造腫瘍性試験法の評価法確立を行い、移植した作製細胞ごとに実施を重ねている。今年度の成果概要としては、①動物iPS細胞の間葉系前駆細胞への分化誘導条件の最適化、②間葉系前駆細胞の培養誘導に関する純化、増幅法の確立、③新規分化誘導因子の候補絞り込み、④作製した間葉系前駆細胞の骨再生能および安全性に関する評価法の確立、などを達成した。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、まず動物細胞を用いて、EB形成を経ずに平面培養によりiPS細胞から間葉系前駆細胞を大量に作製するために必要となる高効率な培養誘導法の最適化を中心に実施した。今年度の成果としては、①iPS細胞の間葉系前駆細胞への分化誘導法の確立、②間葉系前駆細胞の純化、増幅法の確立、③新規分化誘導因子の候補絞り込み、④作製した間葉系前駆細胞の評価法の確立、など4項目を達成することができた。培養誘導に関する基本的なプロトコールの確立はほぼ完了しており、さらなる培養誘導の効率化を目指した分化誘導法の検証、新規候補因子の同定および造腫瘍性試験など、安全性の評価も現在進行中である。最終的な評価法などについては、現在検証を進めているところであり、今年度の成果概要として挙げた上記の項目について、ほぼ予定した通り実施、達成できている。
平成27年度は、確立したプロトコールに基づき、動物iPS細胞から作製した間葉系前駆細胞のみならず、ヒトiPS細胞由来間葉系前駆細胞の作製も並行して最適化を進める。また、間葉系前駆細胞から軟骨細胞および骨芽細胞の三次元組織化のための作製技術の最適化を進める。三次元軟骨組織とハイドロキシアパタイトを用いた培養人工骨の力学刺激培養装置によるハイブリッド組織化する技術を中心に検討を実施する。さらに、動物細胞だけでなくヒトiPS細胞からの三次元組織化法についても検討を進め、実験動物への組織移植の準備を行う予定である。今年度の具体的な方針としては、昨年度進めてきたiPS細胞から間葉系前駆細胞への分化誘導のさらなる高率化に必要な新規分化誘導因子の同定について、網羅的遺伝子発現解析およびトランスクリプトーム解析を行い、新規候補因子に関する機能解析、マーカーとしての有効性などを評価する。iPS細胞由来間葉系前駆細胞の安全性評価については、間葉系前駆細胞を作製する際に遺伝子発現解析、造腫瘍性試験および染色体異常の検出を行う。これらに加え、確立した間葉系前駆細胞の作製技術のヒトiPS細胞への応用を開始し、三次元骨軟骨組織化の作製技術を確立する。
昨年度予定していた網羅的遺伝子発現解析は、大阪大学微生物病研究所からの研究協力が得られ、学内で実施することが可能となった。このためマイクロアレイ解析費用が予定より安価で実施することでき、次年度にもマイクロアレイおよび次世代シーケンサーによる解析が実施可能となる繰越金が生じた。
今年度は、昨年に引き続き、誘導作製した動物細胞およびヒト細胞のマーカー解析と安全性評価のために遺伝子発現解析を行う必要がある。マイクロアレイ解析による網羅的遺伝子発現解析の実施に加え、次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析を実施するための費用して、昨年度の繰越金を含めた助成額を今年度使用額として交付申請している。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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