オピオイド鎮痛薬は強力な鎮痛薬であるが、鎮痛効果の急速な減弱(急性耐性)や痛みの増強(痛覚過敏)を引き起こすことが報告されている。しかし、これらの現象は機序が解明されていないだけでなく、その存在さえも議論の分かれるところである。そこで、μオピオイドの急性耐性や痛覚過敏の存在を確認し、これらの細胞内シグナル機序を解明することを目的とした。 方法は脊髄スライス標本からホールセル・パッチクランプ記録を行った。ラットを麻酔した後、脊髄を摘出し、脊髄横断スライスを作成した。このスライス標本を記録用チャンバーに移して人工脳脊髄液で灌流した。脊髄後角に存在するニューロンを同定し、微小電極を誘導し、ホールセル・パッチクランプ記録を行った。結果はパッチクランプ用増幅器により増幅し、データ解析用ソフトを用いて解析した。脊髄表面にレミフェンタニルを灌流投与し、自発性興奮性シナプス後電流を観察したところ、頻度の減少が認められたが、投与終了後に頻度の増加は認められなかった。さらに、脊髄後根刺激による興奮性シナプス後電流に対して、レミフェンタニルは振幅を減少させたが、同様に投与終了後に振幅の増加は認められなかった。 さらに、in vivo脊髄標本を用いて、興奮性シナプス後電流に対するレミフェンタニルの影響を観察した。レミフェンタニルの脊髄への灌流投与は興奮性シナプス後電流の頻度を減少させたが、投与終了後に頻度の増加は認められなかった。加えて、後肢のピンチ刺激によって誘起される興奮性シナプス後電流の面積はレミフェンタニルの静脈投与により減少したが、投与終了後に面積の増加は認められなかった。 これらの結果から、レミフェンタニルは脊髄後角ニューロンのμオピオイド受容体を介して、興奮性シナプス伝達を抑制することがわかった。しかし、これまで言われている急性耐性や痛覚過敏は確認できなかった。
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