痛覚神経はがん病変の発育・進展を“痛み”として警告信号を発するだけではなく、がんの発育・進展を促進する働きがあることが明らかになった。すなわち、末梢神経系とがん組織の間にクロストークがあることが明らかとなってきた。本研究では、平成26年度にCGRP陽性神経ががんの増殖に関与していることを明らかにした。平成27年度には、ペプチド非含有無髄神経であるIB4結合神経について解析し、ペプチド非含有無髄神経はがんの増殖に関与しないことを明らかにした。CGRPは無髄神経だけでなく、有髄神経にも発現しているために平成28年度は有髄神経の関与について検討した。がんの増殖については小動物用MRIで測定した。坐骨神経内にCholera toxin-B-saporinを投与することにより有髄神経を選択的に除去した。有髄神経の除去は研究終了後に免疫組織学的に確認した。その結果、有髄神経もがんの増殖に関与しないことが明らかになった。また、血管新生についても免疫組織学的に解析したが有髄神経は関与しないことが明らかとなった。次に、神経破壊を伴う神経ブロックの効果について検討したところ、神経切断と同様にアルコールによる神経ブロックは、がんによる痛みを除去するとともに、がんの増殖を抑制した。しかしながら、オピオイドなどの鎮痛薬の全身投与は痛みは軽減させるもののがんの増殖は抑制しなかった。以上により、がん増殖には有髄神経は関与しないこと、また、中枢レベルではなく、末梢レベルでの神経ブロックががん増殖を抑制することが明らかとなった。
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