研究課題
昨年度は、オプトジェネティクス法ならびに化学遺伝学的手法に従い、神経障害性疼痛下におけるモルヒネ鎮痛効果の発現に腹側被蓋野ドパミン神経の活性化が一部関与している可能性を見出している。今年度は、腹側被蓋野を起始核とする中脳辺縁ドパミン神経の投射先である側坐核領域における”エピジェネティクス修飾”について検討を行った。これまでの研究より、miRNA の発現の網羅的解析を行ったところ、神経障害性疼痛下の側坐核領域において、miR-200b ならびに miR-429 の著明な発現低下が認められた。こうした結果を受け、miR-200b ならびに miR-429 を側坐核内にレンチウイルスベクターを用いて強制発現を行ったところ、神経障害性疼痛の回復が認められた。次に、miR-200b ならびに miR-429 の標的遺伝子を 3 つのアルゴリズムに従い絞り込みを行ったところ、DNA メチル化酵素であるDNMT3a が候補遺伝子であることが明らかとなった。3’UTR レポーターアッセイに従い、miR-200b ならびに miR-429 との結合配列の相同性を検討したところ、DNMT3a の発現がmiR-200b ならびに miR-429により直接制御されることが明らかとなった。miR-200b ならびに miR-429 の標的遺伝子である DNMT3a は DNA メチル化酵素であることから、側坐核内における DNA メチル化の変化をMBD2 (Methyl-CpG-binding domain2)-seq に従い検討を行った。マクロアレイより得た mRNA 発現解析結果と相関解析を行ったところ、疼痛下においてmRNA 発現低下が著しく、転写開始点上流が高メチル化されている候補遺伝子を抽出した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は申請書の計画に従い、腹側被蓋野ドパミン神経の投射先である側坐核内における神経障害性疼痛によるエピジェネティクス修飾の変化について検討を行った。神経障害性疼痛下の側坐核領域で著明な発現低下の認められた miR200b/429 の標的遺伝子の同定ならびに、DNA メチル化の網羅的解析を行った。こうした結果から、側坐核内では神経障害性疼痛により DNA メチル化を伴ったエピジェネティック修飾が引き起こされることが明らかとなり、末梢での疼痛刺激は上位中枢において可塑的変化を惹起し、こうした変化が慢性疼痛を難治化させている可能性が示唆された。こうした結論を導き出せたことにより、研究はおおむね順調に進展していると考える。
今年度は DNA メチル化を中心に検討を行ったため、今後はヒストン修飾の変化についても同様に検討を行っていく。さらには、疼痛下の側坐核で遺伝子発現変動が認められた遺伝子のヒストン領域で CBP/p300 などのコアクチベーターをはじめ、H3K4 のメチル化酵素である MLL/ALL、H3K27 の脱メチル化酵素である JMJD3 などの結合状態を ChIP on PCR にて解析する。中脳辺縁ドパミン神経のON/OFF 調節を行って、側坐核内 miRNA 連関シグナルの変動を解析し、これまでの知見と合わせて鑑みることにより、痛みによる側坐核内のエピジェネティクス修飾変化と痛み発現の時間的相関解析や因果解析を行い、痛みによる側坐核内の微小環境変化のリセット治療を探索する。
前年度の繰り越し分に加えて、既に所持しているマテリアルを有効に活用することができたため、今年度は予算を節約することが可能となった。
これまで、本研究課題において得た知見より、慢性疼痛発現ならびに維持に関わる神経ネットワークや分子を同定することができたため、最終年度はエピジェネティクス研究を中心として、痛みによる側坐核内の微小環境変化のリセット治療を探索に向けたアプローチを試みる。こうした解析に関わる関連試薬の購入などを始めとして、予算を有効活用することとした。
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