研究課題
iPSによる再生医療を利用した子宮頸癌の治療法を開発することが本研究の目標であるが、本年度は大きく2つのiPS研究を行った。1つは、エフェクター細胞をiPSによって作製する技術(T-iPS)の改良、もう1つは、iPSから子宮頸癌の発生母地である子宮頸部幹細胞(以下、リザーブ細胞)の作製である。T-iPS技術の改良:本技術は患者の末梢血から抗原特異的なエフェクター細胞を得て、そこからiPS細胞を樹立し(T-iPS細胞)、再び同じ抗原特異性を持った細胞障害性メモリーT細胞へと再分化させる技術である。しかし、再分化の際にCD4+CD8+T細胞を経る際にTCR遺伝子の再構成が起こってしまい、抗原特異性が喪失することが問題であった。TCR遺伝子の再構成を司るRAG遺伝子をノックアウトすることによって、CD4+CD8+の段階でも抗原特異性が維持されることを見出した。これによって、抗原特異的T-iPSエフェクター細胞の作製が可能となった。これによりエフェクター細胞療法を子宮頸癌に応用するための作製工程が進歩した。ヒト由来の抗原提示細胞(APC)の有効な樹立法:ヒト末梢血から50ng/ml GM-CSFと50ng/ml IL-4を含む培地にて一晩培養し、TNF-α/IL-1β/IL-6/PGE2を含む培地にて一晩培養し、mDCを作成し、抗原特異的増殖を促す機能を持つことを確認した。iPSからのリザーブ細胞の作製:子宮頸癌の発生部位である子宮頸部上皮幹細胞、リザーブ細胞が癌幹細胞となることから、iPS細胞からのリザーブ細胞の作製した。すなわち、iPSから中間中胚葉の細胞を作製し、コラーゲン培地で上皮化させた。リザーブ細胞のマーカーの発現を確認した。現在、iPS-リザーブ細胞にHPVを導入して子宮頸癌癌幹細胞を樹立することを始めている。
2: おおむね順調に進展している
東京大学医学部研究倫理委員会の承認を得て、GLBL101c投与患者のうち、臨床的有効性を認めた患者より子宮頸部リンパ球を回収した。立川博士は、HPV特異的なT細胞をより効率良く増殖させ、HPV特異的T細胞の検出感度を上げるため、末梢血単核球(PBMC)よりプロフェッショナル抗原提示細胞である樹状細胞を作成し、抗原提示細胞として刺激培養法を確立した。HPV特異的CD8+T細胞の評価をする際には、臨床試験の登録患者から採取したPBMCを用いて、迅速法によってmDCを作成すれば、抗原提示細胞の存在しない子宮頸部擦過細胞中の抗原特異的T細胞の選択的増殖が可能となる。また、末梢血中のHPV特異的T細胞が検出されることは稀であったが、本法を用いて選択的にHPV特異的T細胞を増殖することで検出感度の改善が期待できる。さらに、金子博士によって、リンパ球からT-iPS細胞を樹立するときに、再び同じ抗原特異性を持った細胞障害性メモリーT細胞へと効率的に再分化させる方法を樹立した。すなわち、iPS細胞の段階でRAG遺伝子にミスセンス変異を導入することで TCRα鎖の追加再構成を完全に防ぐ事が可能であり、再分化 T 細 胞の抗原特異性を保持することができる。この手法は、臨床応用の安全性を高める上で特に有用である。さらに川名はiPSから子宮頸癌の癌幹細胞のモデルになりうるリザーブ細胞を樹立した。HLA拘束性の関係から直接的なリンパ球輸注療法の標的細胞にはなりえないが、免疫寛容状態の形成に深く関与する癌幹細胞を今後の実験に組み合わせ、より実際の腫瘍内微小環境に近い培養系を樹立した。これらの基礎的をH26年度に樹立できたことは概ね予定通りであり、今後の患者サンプルを用いる実験につながる研究を達成できた。
GLBL101c投与患者の子宮頸部リンパ球や末梢血検体を用いて、立川博士が子宮頸部由来の粘膜リンパ球の性質を持つE7特異的細胞障害性T細胞(E7-CTL)をisolateする。立川博士はE7-CTLクローンの樹立を目指す。一方、金子博士により、粘膜型E7-CTLのT-iPS細胞を樹立する。金子博士が開発したRAG遺伝子変異を導入したのちに、同T-iPS細胞をE7-CTLに再分化させる。立川博士は、E7-CTLクローンからE7特異的なCTLの活性の高いTCR遺伝子をクローニングする。子宮頸癌患者における免疫療法の有効性の指標となるバイオマーカーの創出につなげるとともに、同TCR遺伝子を持つ高CTL活性T細胞(将来的にT-iPS化)を子宮頸癌の輸注療法へ応用することをめざす。平成28年度には、粘膜型E7-CTLの表面抗原を含む機能を探索し、場合により、遺伝子導入を行い、E7-CTL T-iPS細胞のmucosal T cell化を行うことをめざす。有効性を検証するためには、ヒトからの抗原提示細胞が必要であり、これは立川博士が確立した樹状細胞を用いる。E7-CTLの活性化・増幅効率の向上とともに、リザーブ細胞から作製した癌幹細胞および抑制性T細胞を用い、腫瘍内微小環境の免疫寛容状態として再現させる。免疫寛容状態の腫瘍内微小環境において大量のE7-CTL T-iPSエフェクター細胞の輸注を試み、免疫寛容を克服できるかをin vitro培養系で検討する。これらの研究により、最終的に子宮頸癌やCIN3に対する粘膜免疫を介した次世代のエフェクター細胞療法の開発するための基礎実験を終え、ヒトへ応用するTR研究につなげたい。
粘膜免疫に起因するHPV特異的細胞性免疫はHPV分子発現乳酸菌ワクチンによって誘導できることは確認されている。しかしmucosal T細胞の指標であるintegrin beta7陽性細胞の回収に必要な磁気ビーズもしくはフローサイトメトリーソーティングが滞った。粘膜免疫型のHPV(E7分子)特異的IFN-gamma産生細胞のソーティングおよびクローン化が出来なかった。クローン化に必要な消耗品を使わなかったため、本年度計上した予算を執行せず、来年度に繰り越した。
E7発現乳酸菌ワクチンの臨床試験に参加した患者のうち、CIN3病変が本試験薬内服に伴い退縮し、子宮頸部円錐切除術を回避された患者9例から、研究倫理委員会承認のもと、再度子宮頸部リンパ球を採取し、これをストックすることによって、粘膜免疫型のintegrin beta7陽性E7特異的IFN-gamma産生細胞を回収し直し、そこから抗原提示細胞として同患者の末梢血から樹状細胞を作成しつつE7ペプチドパルスによって目的のリンパ球を抗原特異的に増殖させることとする。その後にクローン化を図る予定である。
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