研究課題/領域番号 |
26293363
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
宮戸 健二 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, その他部局等, その他 (60324844)
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研究分担者 |
河野 菜摘子 明治大学, 農学部, 講師 (00451691)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 受精 / 卵 / 細胞毒性 / CD9 / エキソソーム / リン脂質 / テトラスパニン / 顆粒膜細胞 |
研究実績の概要 |
質が低下して発生能力が低くなった卵に対しては、若い卵から採取したミトコンドリアを含む細胞質成分を注入する方法が検討されているが、安全性や倫理面から多くの問題が指摘されている。そこで卵の質を良好な状態に維持するために、卵の質が低下する根本的な原因を解明することが必要である。今までの我々の研究から、テトラスパニン・ファミリーに属するCD9が精子と卵の膜融合に必須であり、CD9を含む卵型エキソソーム(マトリックス型)に含まれるリン脂質成分に融合促進活性があることを発見した。一般的に、エキソソームはベシクル型であり、細胞間での物質輸送、特にマイクロRNAの細胞間輸送に関わる膜構造体として、ドラッグデリバリーのツールとして注目されている。一方、我々が発見したマトリックス型エキソソームは2重脂質層が逆転し、逆ミセル状態になっていることが推測され、卵の他には排卵期の子宮内膜上皮から放出されることが明らかになった。ところがその後の研究から、我々が同定したリン脂質は酸化分解されやすく、分解産物は卵に対する細胞毒性因子としても作用することがわかった。リン脂質は細胞膜の主成分として、体のどこの組織にも存在し、細胞毒性因子として作用する危険性がある。現に、病的な子宮内腔には、抗リン脂質抗体が存在することが知られている。 本年度は、CD9の膜貫通領域に相当するペプチドを用いてリン脂質の細胞毒性の中和を試みた。その結果、4番目の膜貫通領域のペプチドを培地に加えるだけで、リン脂質の卵への細胞毒性を中和できた。さらに、卵だけでなく顆粒膜細胞への細胞毒性物質の探索を行い、グルコースが顆粒膜細胞の細胞核の萎縮と細胞死を誘導することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今までの我々の受精の膜融合機構の解析から、CD9、エキソソーム、さらにリン脂質重要性を明らかになった。また、リン脂質にたどり着いたことで、膜融合機構の解明および膜融合の人工的な制御へ道を開いただけでなく、卵への主要な細胞毒性物質として リン脂質に着目する手がかりとなった。昨年までの研究から、リン脂質の中でも特に、ホスファチジルエタノールアミン(PE)の特定の分子種に膜融合促進活性があることがわかった。この種のリン脂質は細胞膜の2重脂質層の内側の層に存在することから、マトリックス型エキソソームは、このリン脂質を特異的に卵細胞膜から抽出し、精子細胞膜に移行させるために必要な構造体であることが推測された。このリン脂質の卵への細胞毒性は、抗酸化物質であるα-トコフェロールによってある程度軽減されることが判明した。ただし、完全には除去することはできなかった。そこで、PEの酸化、還元、光分解、温度変化の視点から、PEの細胞毒性を抑制する物質の探索を行ったものの、クロロホルム以外には、単独の物質でリン脂質の酸化分解を止めることはできなかった。 そこで本年度は、リン脂質に対するCD9、特に膜貫通領域の役割に着目した。さらに、卵の成長から成熟に不可欠な顆粒膜細胞への細胞毒性物質の探索を行った。その結果、リン脂質の卵への細胞毒性はCD9の4番目の膜貫通領域に相当するペプチドだけで中和されることが明らかになった。さらに、顆粒膜細胞への細胞毒性物質として、栄養飢餓、糖類について影響を調べたところ、グルコースが極めて高い細胞毒性を示すことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
CD9を含めたテトラスパニンは脂質と親和性をもっていることが知られており、親和性を担っている構造として膜貫通領域の役割が考えられるが、詳細は不明であった。本年度の研究から、4番目の膜貫通領域の添加によってリン脂質による卵への細胞毒性が中和されることが明らかになった。今後は、残りの膜貫通領域(1、2、3番目)についてもペプチドを合成し、リン脂質の細胞毒性に対する効果を検証する。また、グルコースによる顆粒膜細胞の細胞死は、妊産婦にける糖尿病の発症頻度が高いことからも重要であることから、グルコースによって引き起こされる顆粒膜細胞の細胞死について、オミックス、特にメタボロミクスの観点から分子メカニズムを明らかにするとともに、細胞死を食い止めるための中和物質の探索を進める必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年4月に近距離での移動費が発生する可能性が生じたため、移動費として819円の繰り越し金額を設定した。
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次年度使用額の使用計画 |
近距離での移動費に充当する。移動費が発生しなかった場合には消耗品費として適切に使用する。
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