研究課題/領域番号 |
26293370
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
氷見 徹夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90181114)
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研究分担者 |
横田 伸一 札幌医科大学, 医学部, 教授 (10325863)
高野 賢一 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (70404689)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RSウイルス / インターフェロン / 鼻粘膜上皮 / 上皮細胞 / 抗ウイルス作用物質 / ムンプスウイルス / 麻疹ウイルス / ストレス顆粒 |
研究実績の概要 |
1.抗ウイルス作用を示す薬剤の機序解明 クラリスロマイシン(CAM)は抗菌効果以外にも多くの作用が知られている.CAMは気道上皮細胞においてRSウイルス(RSV)によって誘導されたinterleukin (IL)-6、IL-8を抑制するが、その作用機序は不明である.hTERT導入鼻粘膜上皮細胞、肺胞上皮由来細胞株A549を用いてRSV感染に対するCAMの免疫調節効果の機序を探った.これらの細胞にRSV感染を行い、CAMの影響を検討した。CAMは気道上皮細胞におけるRSV感染においてIFN-λの産生を抑制した.転写因子活性ではA549にRSV感染を行うと、活性化されたIFN-β P-125とPRD III-I(IRF3結合ドメイン)制御下のレポーター活性はCAM処置により抑制された.免疫染色でIRF-3の細胞内局在を検討すると、CAMはRSV感染により細胞質から核へ移行するIRF-3を阻害した.CAMはRSVにより誘導されるIRF-3の核移行を抑制することで、シグナル伝達経路を止めていることが示唆された. 2.ウイルス感染時に出現するストレス顆粒の研究 ストレス顆粒はウイルス感染時に細胞内に出現するが,その作用はウイルス抑制と促進の両者の性質を持つ.ムンプスウイルス感染系を用いてこのストレス顆粒の作用機序を経時的に観察した.PKR依存性に出現するストレス顆粒はⅢ型インターフェロンの産生を一部抑制することが分かったことから,ストレス顆粒が部分的に感染促進的に働いていることが推定された. 3.麻疹ウイルスのIFN誘導遺伝子に対する作用 IFNにより誘導されるISGはウイルスに対する抵抗性を獲得するための重要な機序の一つである.麻疹ウイルスが全身に播種される機序として免疫機構に対する直接作用が考えられているが,ISGに対する強い抑制作用を野生株の麻疹ウイルスにが持っていることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インターフェロン,特にⅢ型インターフェロン(IFN)に注目してきた.この理由はⅢ型IFNが粘膜上皮から主に産生されること,粘膜に感染するウイルスに対する初期の防御作用に重要であることからである.上気道の最前線に位置する鼻粘膜がは呼吸器ウイルスのターゲットであり,特に小児のウイルス感染は免疫学的に未熟であること,あるいはワクチンの普及に関する問題点などから,新しい治療戦略の開発が急がれている.このことから本課題では,Ⅲ型IFNの基礎研究の中からこの問題点の解決法を模索している.現在までに,マクロライド系の抗ウイルス作用(RSウイルスに対する抑制作用),抗炎症作用の機序に関し新たな知見を得た.IRF3の核内意向が重要であること,また,ミトコンドリアタンパクが子の作用機序に関与していることも明らかにした.さらに,ムンプスウイルス感染系を用いた検討では,PKR依存性に出現するストレス顆粒がウイルス抑制効果を持つIFN産生を抑制することも分かった.麻疹ウイルス感染の免疫抑制作用の機序として,野生株のウイルス抑制物質産生遺伝子を抑制する効果が実験室株よりも高いことが分かったなど,Ⅲ型IFNの基礎的研究が順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
呼吸器ウイルス抑制をもたらすインターフェロンの作用機序の解明が進んでいるため,マクロライド系薬剤などの既存の薬剤や生理活性物質に関して,Ⅲ型IFNに対してどのような作用を持つか探索することとしている.RSウイルス感染抑制効果のあることを見つけたクルクミン,フムロンの発見は,確立された初代培養鼻粘膜ウイルス感染系による細胞内でのシグナル伝達系の解明から生まれた.今年度に解明されたIFN産生にかかわる新しい調節機序として,IRF3の核内移行,PKR依存性ストレス顆粒,ISG産生調節因子の3つを解明した.これらの因子の調節にかかわる既存の物質あるいは薬剤をスクリーニングし,その中から実際に初代培養鼻粘膜ウイルス感染系を用いて評価し,RSウイルス,ムンプスウイルスなど上皮をターゲットとする呼吸器ウイルスに対してウイルス抑制効果,抗炎症作用を示すか確認し,さらに扁桃リンパ球を用いた幹線系を用いて麻疹ウイルスの抑制効果を示す生理活性物質を探索する. また,細胞内のミトコンドリアタンパクのうちNIP-SNAPが炎症調節にかかわるターゲットタンパクであることが解明されたため,このタンパクを中心とした抗炎症作用についてさらに解明を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
現在投稿中の論文の受理が遅れているため,予定していた投稿料が支出されていないため次年度使用額が生じた.また,一部のプロジェクトの進行が遅れているため(抗ウイルス作用を持つ生理活性物質の探索),未使用分が生じている
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次年度使用額の使用計画 |
投稿料に関しては受理後に支出予定であるが,追加の研究が必要となった場合も次年度使用額の中から支出予定である.また,進行の遅れているプロジェクトに関する支出として使用予定である.
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