研究課題/領域番号 |
26293390
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
寺尾 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50397717)
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研究分担者 |
小田 真隆 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00412403)
土門 久哲 新潟大学, 医歯学系, 助教 (00594350)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 好中球 |
研究実績の概要 |
誤嚥性肺炎を包含する肺炎は,耐性菌の増加と人口動態の高齢化に伴い増大・重症化する傾向にある.ついに昨年度は,わが国の死因疾患トップ3が入れ替わり,肺炎が第3位となる事態が生じている.医科領域では,重症化肺炎に進行してから患者が入院してくることもあり,大量の抗菌薬を使用し救命に努めざるを得ない.当然の帰結として,薬剤耐性の肺炎球菌が増大し院内感染の起因細菌へ転帰し,次なる治療を困難にしている.難治化・長期化する肺炎治療は,医療費の膨張,患者QOLの低下,医師の激務へと悪循環のサイクルを加速させている.特に,ペニシリン耐性の肺炎球菌の分離は著しく,2016年4月1日付けで日本政府は具体名を挙げてペニシリン耐性肺炎球菌の対策も決定した.臨床の場に立つ医療従事者には衝撃的なことに,あと4年で抗菌薬の使用を3分の2に減らす数値目標までが設定された.言い換えると,極端な数値目標や追加ガイドラインの策定が急務なほどに,肺炎等の感染症が高齢化社会では問題になってきている.申請者は,肺炎起因菌を含めたレンサ球菌属に対する免疫システムのイメージング解析研究を開拓し,好中球の新たな免疫システムNETsを解析している.好中球は,微生物感染に対して最初に作動する重要な免疫系を形成するにも関わらず,世界的に見ても研究する人口が少ない免疫細胞である.したがって,好中球免疫については統合的な解析はこれまでに無く,かつ同細胞を制御して病原微生物を排除する方法も検索されていない.そこで本研究では,好中球免疫系解析の実験手技とアプリケーションを用いて,さらに新たな免疫担当細胞に存在するNETs系免疫システムの同定と可視化を目指した.最終的には,抗生剤と併用可能なNETs免疫誘導の感染制御を目指している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
好中球のNETs免疫系を現有のタイムラプス型蛍光レーザー共焦点顕微鏡を使用して解析し,肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeの代謝系酵素であるalpha-enplaseが1ug/mlでNETs誘導を効率的に果たすことを見出している.またさらに,結核菌の菌体表層成分をモデルにした無毒な化学合成標品にもNETs誘導能があることを明らかにした.この際に,ヒト末梢血から好中球細胞を分離すると,材料の供給上,頻回な実験が行えない問題が生じた.そこで,ヒト末梢血由来の好中球細胞と同様のNETs誘導の挙動を示す研究用の培養細胞株をスクリーニングした.その結果,好中球様と称される2種類の培養細胞株のうち,HL-60 Ast.3細胞はNETs誘導が弱いものの,THP-1細胞株では比較的NETs誘導が観察されることが明らかになった.これらの結果をベースにして,NETs誘導実験を繰り返し,精度の高いデータを集積することが可能となった.続いて,好中球以外の細胞にもNETs系の免疫システム作動性があるかについて,ヒト免疫細胞を網羅的に用いて調べたところ,マクロファージ細胞にもNETs様免疫を起こす能力が備わっていることを示せた.しかしながら,マクロファージ細胞のNETs様免疫システムは,好中球のNETs免疫と比較すると,肺炎球菌の捕獲能力が低い傾向にあった.以上の年度内研究の結果から,材料の制約を受けずにNETs誘導実験を繰り返す実験系の確立が果たせ,また好中球以外の免疫細胞にもNETs系免疫があるものの,細菌排除の効果が小さいことを見出し,肺炎球菌alpha-enplaseが現時点で最適なNETs誘導物質であることを示せた.
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今後の研究の推進方策 |
好中球にNETsを誘導させる,あるいは肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeが産生する毒素により,好中球細胞が傷害を受けると,細胞に内在する各種の好中球酵素が組織へ遊離する.免疫系を補強するために,好中球NETsを誘導した副反応で,好中球由来の強力な酵素がヒト組織を傷害する可能性が,次なる問題点として浮上する.そのため,研究の最終年度では,好中球から遊離する内在性の酵素による肺胞等のヒト組織への傷害性を調べる.ヒト組織・細胞への為害性が観察された場合は,細胞傷害に繋がる分子メカニズムを解析する.そのために,新潟大学歯学部にマルチプレックスアッセイ用のLuminex200システムを導入する計画である.これにより,同時に100種類の細胞シグナルを96条件で解析することが可能となる.次年度は,特に,好中球内部から漏れ出る炎症性サイトカインとプロテアーゼ群に着目して,その種類と量を測定する.そして得られた,分子メカニズムを基盤とした好中球周囲の肺胞細胞等への傷害性を回避させる方法,あるいは阻害化合物を検索する.そして,全3年度の期間の解析結果の集積で得られる,「NETs誘導を効率的に引き起こすalpha-enplase存在下で,好中球から漏出した為害性がある自己酵素をコントロールしながら,感染微生物排除させること」が可能となるか否かを高詳細な画像解析機器で検索する.そのため,64倍でリアルタイム観察機能を有する現有の蛍光レーザー共焦点顕微鏡に,平成28年度科学研究費補助金で100倍レンズを購入し,詳細観察機能をアップグレードさせる計画を立てている.計画が順調に進捗した場合は,新潟大学歯学部に新設する動物実験施設でマウス実験を行い,in vivoレベルでの検証へ展開させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,ヒト末梢血を材料とし,これより好中球を精製していた.しかしながら,健康管理上,採血量の制約が生じてきた.そこで,代替の材料を材料として研究用培養細胞をスクリーニングすることになった.その結果,培養細胞株の中から,代替用の材料を見出すことができたが,一方でそのスクリーニングに要した時間により,当初計画では平成28年3月に購入する試薬類の発注が遅れ,平成28年4月の注文になる見込みである.
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次年度使用額の使用計画 |
上欄に記すように,当初計画で平成28年3月に購入する予定の試薬類の発注については,平成28年4月の注文になる見込みである.
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