研究課題
平成27年度は昨年度に引き続き①骨転移成立の分子メカニズム解明と②骨転移により誘導される骨痛メカニズムの解明を行った。①骨転移成立過程においては、骨微小環境とがん細胞との相互作用が重要であることが明らかとなっている。そこで転移がん細胞が作り出す酸性環境と、骨内の知覚神経との相互作用が骨転移に関与するとの仮説を立てそのメカニズムの解明を行った。マウス乳がん細胞4T1細胞を脛骨骨髄内に注入すると溶骨性の腫瘍増大が見られるとともに、骨内の腫瘍辺縁にカルシトニン遺伝子関連ペプチド陽性痛覚神経の増成が見られた。ラット後根神経節(DRG)から採取した初代培養知覚神経細胞を用いた解析により、腫瘍存在下においてHGF(hepatocyte growth factor)の発現が増加することを見出した。さらに乳がん細胞においてHGF受容体c-Metをノックダウンすると、骨内での腫瘍増大が抑制された。②骨転移に合併する骨痛のメカニズムを明らかにするために、骨転移がん細胞の影響によって知覚神経細胞で発現が上昇する遺伝子の検索を行った。骨転移能を有するヒト多発性骨髄腫細胞株JJN3をマウスに接種した後、知覚神経細胞体である後根神経節(DRG)からRNAを採取し、偽手術を施したマウスをコントロールとしてマイクロアレイ解析を行った。その結果、骨転移を有するマウスのDRGにおいて発現が上昇した遺伝子を複数クローニングした。以上の結果より、骨転移がん細胞は酸性環境の構築や液性因子を介して、骨に存在する知覚神経細胞において、HGFのような増殖因子の産生を高め、傍分泌的に腫瘍をさらに増大させ、同時に骨痛の発現にも関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、骨転移成立過程において骨内の痛覚神経が増生していること、また痛覚神経から分泌されるHGFが骨内での腫瘍増殖に関与していることを見出した。また、骨痛メカニズムに関しても、担がんマウスの後根神経節を用いたマイクロアレイ解析に成功し、複数の興味深い遺伝子のクローニングに成功している。したがって、研究計画は「おおむね順調に進展している」と判断した。
平成28年度は、平成27年度までに明らかにしてきた骨転移の分子メカニズムと骨痛のメカニズムについて引き続き解析を進めていく。骨転移のメカニズムに関しては、骨内での腫瘍増殖における痛覚神経細胞由来HGFの役割について検討を進めていく。がん細胞におけるHGFシグナルの活性化や阻害が骨内での腫瘍増殖や骨からの二次転移におよぼす効果について検討し、HGFが骨転移ならびに骨痛の治療分子標的となり得るかについて明らかにする。また、がん細胞が知覚神経細胞においてHGFの発現を増加させるメカニズムについても検討する。骨痛のメカニズムに関しては、骨細胞との相互作用、転移がん細胞によって形成される酸性環境の役割について検討を行う。そのためのアプローチとして、初代培養DRG神経細胞を用いたマイクロアレイ解析を行い、酸性環境における発現変動遺伝子の同定とその役割の解明を行う予定である。さらに、酸感受性受容体Trpv1遺伝子欠損マウスの脛骨骨髄内に乳がん細胞を注入し腫瘍増大および肺への二次転移の有無を検討することにより、骨内での腫瘍増大におけるTrpv1を介した酸感受性シグナルの役割について検討を行う。また、インディアナ大学との共同研究により、骨細胞特異的に細胞間伝達分子、コネキシン43 (Cx43)遺伝子をノックアウトしたマウスを用いてマイクロアレイ解析ならびに生理学的行動解析を行い、骨痛における骨細胞の生物学的役割を明らかにしていく予定である。
連携研究者が国内の学会で発表予定であったが、参加しなかったため次年度使用額が生じたと考えられる
平成27年度の残額は平成28度に遺伝子工学試薬として使用する予定である
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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