平成28年度も平成27年度に引き続き骨転移成立、進展の分子メカニズム、ならびに骨転移に合併する骨痛のメカニズムの解明を進めた。 ヒトMM細胞株JJN3を免疫不全マウスの脛骨骨髄内に接種すると、接種7日目ごろよりJJN3細胞は旺盛に増殖し、激しい骨破壊とマウスに骨痛を誘発した。JJN3細胞は細胞膜上に液胞性プロトンポンプを強く発現し、プロトンを細胞外に放出することにより骨内環境を酸性化した。プロトンポンプ阻害剤、バフィロマイシンA1、あるいはshRNAを用いたJJN3細胞の液胞性プロトンポンプのノックダウンによりJJN3細胞からのプロトン放出を低下させ骨内環境の酸性化を阻害し、JJN3の骨内での増大および骨破壊は減少した。これらの結果から、がん細胞の細胞外環境の酸性化の抑制によりがん細胞の骨内での増殖が阻害されることが明らかとなり、プロトンポンプ阻害剤が抗腫瘍効果を有することが示された。 プロトンは発痛因子としても知られており、JJN3担がんマウスに見られる骨痛はJJN3細胞から放出されるプロトンが誘因の一つと推察される。この考えに一致して、バフィロマシンA1 によりJJN3細胞からのプロトン放出を阻害すると担がんマウスの骨痛は著明に緩和された。また知覚神経に発現する酸感受性受容体ASIC3(Acid-sensing ion channel 3) がJJN3細胞が放出するプロトンにより活性化され、ASIC3の選択的阻害剤APETx2投与により担がんマウスの骨痛が緩和することが示された。したがってがんの骨痛の抑制には破骨細胞とMM 細胞の液胞性プロトンポンプの阻害が効果的であることが示唆された。
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