研究課題/領域番号 |
26293397
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究分担者 |
中山 希世美 昭和大学, 歯学部, 助教 (00433798)
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 助教 (10453648)
鬼丸 洋 昭和大学, 医学部, 客員教授 (30177258)
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 講師 (60384187)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 舌骨下筋群 / 呼吸 / 動脈灌流標本 / 高二酸化炭素血症 |
研究実績の概要 |
嚥下は延髄に存在する嚥下の中枢パターン形成機構(CPG)によって制御されると考えられるが、呼吸・循環中枢と部位的に重なることなどから実験操作が難しく、嚥下のCPGの実態は不明であった。そこで今年度は、心臓移植時に行われる体外循環法を適用した除脳ラット灌流標本を用いて、その基本的特性の確認と、灌流液の二酸化炭素濃度を変化させた時の呼吸活動と舌骨下筋群の活動の関連性を調べる目的で実験を行った。 実験には生後3-4週齢のWistarを用い、イソフルレン麻酔下にて横隔膜直下で下半身を離断し、上丘の前端で除脳を行った。次いで下行大動脈の断端からカテーテルを挿入し、送液ポンプを用いて人工脳脊髄液を灌流した。灌流液は室温下で95% O2-5% CO2混合ガスで曝気し、膠質浸透圧調整剤および抗凝固剤を加えた。実験は31℃の温度環境下で行った。 コントロールでは、横隔神経の吸息性活動とほぼ同期して上喉頭神経および舌骨下筋群を支配する第1から第2頸神経(C1-2)から神経活動が記録された。 CO2濃度を上昇させると、呼吸頻度は0。32Hzから0。27Hzに減少した。 また、吸息に一致した横隔神経、上喉頭神経およびC1-2活動の振幅は、それぞれ20.6%、11.1%、26.3%に増大した。また、横隔神経活動に対してC1-2の活動がより先行した(コントロール:0.28秒、CO2濃度上昇:0.83秒)。このような変化はCO2濃度を変えずにO2濃度を低下させたガス(90% O2-5% CO2)を用いた場合は観察されなかった。以上の結果から、 生後3-4週齢の除脳ラット灌流標本においてCO2濃度を上昇させpHを変化させると、呼吸頻度の低下および舌骨下筋群の活動開始タイミングが早まることが明らかになった。このような変化は、高CO2濃度負荷時の呼吸パターンの変化に対応していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において正常動物に近い状態で機能する除脳ラット灌流標本の作製が必須である。本除脳ラット灌流標本の状態を評価するためには、すでに多くの報告がある呼吸の報告と比較するのことが最も確実な方法と言える。本研究計画の申請時には、嚥下のCPGと呼吸の抑制の関連を平成27年度で検討する予定であったが、これを前倒しにして、除脳ラット灌流標本に適切な状態で呼吸が誘発されているかについて二酸化炭素濃度を上げた時の変化などを指標に評価を行った。さらに嚥下時には舌骨下筋群の活動評価が必須となるが、二酸化炭素負荷時などの舌骨下筋群の活動評価を行った報告はない。26年度の研究結果からCO2濃度を上昇させpHを変化させると、呼吸頻度の低下および舌骨下筋群の活動開始タイミングが早まるという学術的に価値ある知見が得られるとともに、適切な状態で機能する除脳ラット灌流標本の開発に成功したと言える。したがって本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、CO2濃度を上昇させた時の実験結果をまとめるとともに、本標本の上喉頭神経を刺激して嚥下を誘発させた時の咬筋神経、顎舌骨筋神経、顔面神経、舌下神経、反回神経および上喉頭神経の食道上部に分布する枝と、呼吸筋の運動神経である横隔神経の活動を記録し、嚥下誘発時にどの運動神経がどのタイミングで活動するかを解析するとともに、最適な刺激および記録条件を検討して本動物実験モデルを確立する。さらに嚥下のCPGの一部とされ、嚥下の開始やパターンを形成すると考えられている孤束核全体の神経活動を、神経細胞の興奮を蛍光強度の変化として観察できる光学的膜電位計測法を用いて記録し、嚥下誘発時の嚥下関連筋の運動神経の活動パターンと合わせて解析を行い、孤束核のどの部位がどの嚥下関連筋の活動期に先行あるいは一致して活動するかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、CO2濃度を上昇させた時の呼吸関連筋と舌骨下筋群の活動解析について限られた数の筋で解析を行ったため、データ取得・解析には現有設備を用い、購入予定であった8chデータ取得・解析システムを購入しなかった。また、CO2濃度を上昇させた時の変化を前倒しで解析し、嚥下時の孤束核の活動の解析に用いる光計測用マクロ顕微鏡の購入を行わなかった。これらによって次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初に計画された消耗品費および旅費等の他に、8chデータ取得・解析システム(1,972,080円: CED社製 インターフェース本体 Power1401-03,専用データ収集解析ソフト Spike2 WS88)と光計測用マクロ蛍光顕微鏡(2,655,000円: ブレインビジョン社製 本体UPAT-Di4, レンズセット)を購入する予定である。
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