研究課題/領域番号 |
26293397
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究分担者 |
中山 希世美 昭和大学, 歯学部, 講師 (00433798)
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 助教 (10453648)
鬼丸 洋 昭和大学, 医学部, 客員教授 (30177258)
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 准教授 (60384187)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 嚥下 / 除脳灌流標本 / 舌下神経 / 迷走神経 / Substance P / 孤束核 |
研究実績の概要 |
除脳ラット灌流標本を用いて、延髄に存在する嚥下の中枢パターン形成機構(CPG)について調べるため、今年度は除脳ラット灌流標本で嚥下の誘発を試みた。 生後3-4週齢のWistarラットを用いて、イソフルレン麻酔下にて、横隔膜直下で下半身を離断し、上丘の前端で除脳を行い、下行大動脈の断端からカテーテルを挿入し、送液ポンプを用いて人工脳脊髄液を灌流し、除脳ラット灌流標本を作製した。口腔から下咽頭入り口まで外径0.9 mmのポリエチレンチューブを挿入し、精製水を10 ml/minの速度で0.5-1 ml注入したところ、嚥下運動が見られた。筋弛緩薬であるvecuroniumを投与し、舌下神経、迷走神経、横隔神経から複合活動電位を記録したところ、注水後に、舌下神経と迷走神経にのみ1-10数回のバースト発射が見られた。この間、横隔神経の吸息活動は抑制された。 また、薬剤による嚥下の誘発を試みるため、灌流液中にsubstance P (10-500 microM)を溶かして投与した。substance Pの投与で、舌下神経と迷走神経に10数回続くバースト発射がみられ、この間、吸息活動は抑制された。これらの結果より、下咽頭への注水やsubstance Pの投与で、除脳ラット灌流標本に嚥下を誘発できることが示された。 このような標本で、延髄孤束核周辺の嚥下に関連する活動を調べるため、頭蓋骨を延髄背側全体が見えるように除去し、次いで、小脳を除去した。橋・延髄の部分に膜電位感受性色素であるDi-2-ANEPEQ (0.1 mg/ml)を滴下して染色し、嚥下による膜電位変化を調べているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、まず、正常動物に近い状態で機能する除脳ラット灌流標本の作製を優先した。本除脳ラット灌流標本の状態を評価するために、すでに多くの報告がある呼吸の報告と比較し、除脳ラット灌流標本に適切な状態で呼吸が誘発されているかについて二酸化炭素濃度を上げた時の変化などを指標に評価を行った。その結果CO2濃度上昇により、舌骨下筋群の活動が呼息相から出現するとともに活動量が上がるという学術的に価値ある知見が得られ、その成果をPLOS ONE誌に発表した。 このように、昨年までに適切な状態で機能する除脳ラット灌流標本の開発に成功したため、今年度は、嚥下の実験モデルの開発を試みた。その結果、下咽頭への注水と薬剤投与の2つの方法で、除脳灌流標本に嚥下を誘発することに成功した。また、除脳灌流標本を用いて、孤束核周囲を膜電位感受性色素で染色することにも成功し、現在、嚥下に伴う、橋、延髄での神経活動を解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度までに確立した除脳ラット灌流標本を用いた嚥下の動物実験モデルを使い、嚥下のCPGの一部とされ、嚥下の開始やパターンを形成すると考えられている孤束核全体の神経活動を、光学的膜電位計測法やパッチクランプ法を用いて記録し、嚥下誘発時の嚥下関連筋の運動神経の活動パターンと合わせて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に、脳幹の局所破壊による嚥下関連筋および呼吸筋の活動に対する影響の検討を行い、その結果の解析結果を基に平成28年度に国際学会において発表する予定であった。しかし、膜電位計測法を利用した孤束核ニューロンの活動の記録システムの構築および解析条件の決定に時間がかかったあったため、平成27年度の計画を平成28年度も継続した。このため、膜電位計測データの解析、それにより明らかになった部位の破壊等を平成28年度から29年度にわたって行い、その成果を平成29年度の国際学会で発表することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に構築した膜電位計測システムで用いる薬剤等の消耗品費、および成果発表のための旅費等に使用する予定である。
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