研究課題
【目的と方法】歯周病では、破骨前駆細胞が破骨細胞に分化し歯槽骨を吸収すると考えられているが、それらの破骨前駆細胞がいかなる性質をもち、どのような組織から炎症部位に動員されるか詳細は不明である。これを解明するために我々は、生理食塩水またはLPSを投与したマウスの骨髄、脾臓、および血液よりCD11bやc-Fmsなどの単球・マクロファージ系細胞が発現する分子を指標として細胞を分離し、それぞれの破骨細胞分化能を解析した。【結果と考察】生理食塩水を投与したマウスの骨髄細胞、脾臓細胞および血液からCD11bを指標に細胞を分離したところ、骨髄のCD11b+細胞は破骨細胞分化誘導因子RANKLの存在下でも破骨細胞に分化せず、CD11b-細胞が破骨細胞に分化した。我々は最終分化した破骨細胞がCD11b+であることから、このCD11b-細胞がCD11b+に変化する機序を検討するため、CD11b-細胞を骨芽細胞上で24時間培養した。その結果、CD11b-細胞はCD11b+に変化し、破骨細胞分化能を獲得したことから、骨芽細胞との接触が重要と推察された。一方、脾臓では、1週齢までCD11b+およびCD11b-ともに破骨細胞に分化したが、6週齢ではいずれも分化しなかった。即ち脾臓では、成長に伴って破骨細胞分化能を持つ細胞が減少すると推察された。血液では骨髄とは対照的に、CD11b+細胞が破骨細胞に分化し、CD11b-細胞は分化しなかった。次にLPS投与マウスを解析したところ、生理食塩水投与では分化しなかった骨髄や脾臓のCD11b+細胞が破骨細胞に分化した。従って、LPSによる免疫の活性化が破骨細胞分化能を持たないCD11b+細胞に分化能を与えたか、分化能を有する新たな細胞集団が出現した可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿って順調に実験を遂行することができ、破骨前駆細胞の性質について目標とする知見を得ることができたため。
H27年度以降は破骨前駆細胞の動態解析について研究を推進する。1)癌骨転移モデル:マウスメラノーマ細胞株(B16F10)が骨に転移すると、骨破壊を伴う黒色病変が現れる。その部分に移植したCatK-Cre;mTmGマウスの前駆細胞やそれが破骨細胞に分化したものが存在するか、凍結組織切片を作製して解析する(高見・山田)。2)頭蓋骨炎症性骨破壊モデル:LPSや菌体をマウス頭蓋骨の骨膜部に注射すると5日以内に破骨細胞による骨破壊が誘導される。実体蛍光顕微鏡や凍結切片作製により、破骨前駆細胞および破骨細胞に分化したCatK-Cre;mTmG細胞を検出する(小林・高見・山田)。3)異所性骨形成モデル図:BMP-2を含むコラーゲンスポンジをマウスの背筋膜下に埋入すると骨髄をもつ異所性骨が誘導される。申請者は、TGF-βが骨量を5倍以上に増加させることを見いだしている。この系を使えば、骨の形成過程に動員される破骨前駆細胞を同定できる。(高見)4)骨巨細胞腫移植モデル:骨巨細胞腫の腫瘍本体は間葉系細胞であるが、そこに血液中の破骨前駆細胞が動員され、腫瘍細胞との相互作用を介して破骨細胞に分化する。この系を用い、血液中のCatK-Cre;mTmGマウス由来破骨前駆細胞がどのようにして破骨細胞に分化するか組織切片を作製して解析する。(山田・高見)
実験動物から細胞を採取し、それらを種類別に分ける方法として研究計画当初はセルソーター付きのフローサイトメーターを使用する予定であった。しかし、最近開発された磁気ビーズ結合抗体をを用いることによって、セルソーター付きフローサイトメーターをよりも簡便かつ非常に安価にそれを実施することが可能となり、予定よりも少ない金額で実験をおこなうことができた。また、遺伝子組換え動物を外部委託によって作製する予定であったが、その準備段階となる当方での遺伝子組換え用のDNAコンストラクトの作製に時間がかかり、委託は次年度以降に持ち越すこととなった。以上の理由により、次年度使用額を生じる結果となった。
今回生じた次年度使用額は、遺伝子組換え用のDNAコンストラクトの作製と遺伝子組換え動物作製の外部委託および、遺伝子解析に用いる試薬等の購入に使用する予定である。
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