研究実績の概要 |
本研究は,歯周病原細菌と宿主細胞間の感染現象について,P. gingivalisの病原性プロテアーゼジンジパインに着目し,宿主細胞機能に対するジンジパインの作用解析により,歯周病態発症の分子病態の解明を目的とする。平成27年度では,病態発症におけるジンジパインの重要性を調べるためにジンジパイン完全欠損株とその野生株を用いた感染実験による比較解析を行なった。歯肉上皮細胞においてPI3K/Akt経路は,細胞の生存や増殖,グルコース代謝,タンパク質合成に重要な役割を果たしている。我々の研究では,ジンジパインはPI3/KAktの活性を抑制することを明らかにしたが,その下流因子への影響については,多くの基質タンパク質が存在しており,分子ひとつひとつの解析が必要となる。今回の研究では,GSK3, mTORおよびタンパク質合成制御に関わる4EBP, p70S6K, RPS6, さらにはp53制御因子MDMに対する影響について検討した。その結果GSK3, mTOR, 4EBP, MDM2のリン酸化レベルは,野生株の感染によって起こるAktの活性抑制と並行して減少した。一方で,p70S6KとRPS6のリン酸化レベルはAktの抑制と相関しない結果を示した。なかでもRPS6は,野生株の作用によってリン酸化活性の亢進が認められ,Akt経路とは異なる経路の存在が示唆された。ジンジパイン欠損株の感染下では,上記のタンパク質のリン酸化レベルに変化は認められなかった。従って,ジンジパインはAkt経路のリン酸化レベルの変化を惹起し,それぞれのタンパク質の活性に対して影響を与えていることが考えられた。平成28年度では,これらのタンパク質が制御する生理的機能へのジンジパインの作用解析を行ない,ジンジパインの病原性発現機序および歯周病発症への役割を明らかにしていくことを計画している。
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