iPS細胞の開発により、患者自身の細胞から作製した幹細胞による歯の再生への応用の可能性が高まっているものの、歯の再生療法の道のりは長いと言わざるを得ないのが現状である。幹細胞の歯形成細胞への分化制御メカニズムが再生療法の展開に必要不可欠であるものの、未だ明らかにされていないことが大きな要因の一つである。発生過程のメカニズムは、幹細胞誘導メカニズム確立にとって大きな情報と言える。NF-kBシグナルの異常は、外胚葉異形成症の原因であり、歯の発生にも深く関わる。そこで、本研究では、NF-kB関連遺伝子改変マウスの解析を通して、幹細胞の歯胚細胞への誘導メカニズムの解明を目的とする。前年度まで、NF-kB シグナル(古典経路)が上皮で過剰に活性化するIkkβ-K5マウスの前歯部に過剰歯を認め、それらが胎生期の歯胚上皮のWntシグナルの異常活性により形成される事を明らかにした。我々は、さらに6ヶ月齢のIkkβ-K5マウスのcervical loop付近に、それらの過剰歯とは異なるタイプの多数の過剰歯を認めた。また同時期に、複数のcervical loop様構造とSox2発現の著しい上昇も確認した。6ヶ月齢のIkkβ-K5マウスに認められたタイプの過剰歯は、若いIkkβ-K5マウスには認められず、6ヶ月齢Ikkβ-K5マウスで認められる多数の過剰歯が、Ikkβ-K5マウスで認められる胎生期歯胚からの過剰歯形成メカニズムとは、別の分子機構で形成されることを確認した。Sox2発現の著しい上昇が、多数の過剰歯と複数のcervical loop様構造の原因かを検索するために、Sox2が上皮に過剰発現する遺伝子改変マウスを作成し、検索を行った。しかし、Ikkβ-K5マウスに認められるような多数の過剰歯と複数のcervical loop様構造を確認する事はできなかった。
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