本研究の目的は、腫瘍細胞、特に口腔がん細胞では増殖可能で最終的には細胞を溶解し、正常細胞では増殖できず何の影響も与えない腫瘍溶解アデノウイルスを開発することである。アデノウイルスのE4領域にコードされているタンパクは、ウイルスの増殖に必須で、ARE-mRNAを核外輸送・安定化することによりウイルスを複製に導く。そこで、E4を欠損したアデノウイルス(AdΔE4)でも、あらかじめARE-mRNAが核外輸送・安定化しているがん細胞では増殖でき、ARE-mRNAが核内にある正常細胞では増殖できないと考えた。本研究ではこのウイルスの口腔がんに対する腫瘍溶解効果を検討することを目的とする。 本年度は、AdΔE4の臨床応用を想定して、抗がん剤との併用、及び転移活性の高いがんへの応用を検討した。口腔がん細胞を用いて、抗がん剤シスプラチン単独、AdΔE4単独、そして両者を併用した時の細胞死を検討した。その結果、併用した実験群で最も高い細胞死効果が得られ、シスプラチンとAdΔE4の併用効果が認められた。さらに、我々の研究室で分離した、シスプラチン耐性を持つ口腔がん細胞を用いて同様の検討をしたところ、やはり併用効果が認められた。これらの結果は、シスプラチンの効果が期待できない口腔がんでも、AdΔE4と併用することにより、その治療効果が期待できることを示している。次に、転移活性の高い口腔がん細胞HSC3と低い細胞Ca.9.22を用いて、AdΔEの腫瘍溶解効果を検討した。その結果、特に転移活性が高い細胞でより腫瘍溶解効果が高いことはなく、期待していた効果は得られなかった。また、転移活性の異なる乳がん細胞株、MCF7(転移活性が低い)、MDA-MB-231(転移活性が高い)を用いても同様に、期待していた効果は得られなかった。
|