研究課題/領域番号 |
26293438
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
松下 健二 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 口腔疾患研究部, 部長 (90253898)
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研究分担者 |
萩原 真 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 口腔疾患研究部, 流動研究員 (30546099)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 認知症 / アルツハイマー病 / 歯周病 / 生活習慣病 / 因果関係 / 歯周病関連細菌 / 慢性炎症 / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
近年、歯周病などの慢性炎症性疾患が全身に波及し、糖尿病や動脈硬化の発症・進行に関与することが考えられている。一方、アルツハイマー病(AD)の分子病態の形成においても炎症は深く関与するが、歯周病とAD との因果関係については不明である。最近我々は、アルツハイマー病モデルマウス(APP-Tg マウス)を用いて、歯周病あるいは歯周病原細菌によるAD 病態増悪の可能性を明らかにした。本研究では、歯周病の炎症あるいは歯周病関連細菌がAD の病態を増悪する機序を酸化ストレス病態増悪といった観点から検討することを目的とし、研究を実施した。まず、APP-Tgマウスに歯周病を起こさせる実験系を確立した。歯周病群はP.g菌(Porphyromonas gingivalis ATCC 33277株)を2.5% CMC(Carboxy methlcellulose)に懸濁してP.g菌懸濁液(1×1010 CFU)を1日おきに計5回、58および62週齢マウスの口腔内に直接投与した。その後、5週間飼育することにより実験的歯周炎を惹起した。歯周病を発症させた63週齢APP-Tgマウスの学習行動試験を実施した結果、対照群のAPP-Tgマウスに比べて、歯周病群では認知機能障害の増悪が認められた。加えて、歯周病群のマウスの海馬および皮質において、対照群のそれに比べ有意に高いAβ沈着の沈着がみられた。さらに、歯周病群のマウスの脳抽出液中には、対象群のそれに比べ有意に高いIL-1βおよびTNF-αの産生が認められた。以上の結果は、歯周病の慢性感染が脳内アルツハイマー病分子病態の増悪を誘導することを示している。今後、さらにモデルマウスにおける病態解析を継続するとともに、口腔内の炎症や歯周病源細菌の影響が脳内に波及する機序を明らかにしていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究結果から以下のことを明らかにすることができた。 1)歯周病を感染させた63~67週齢のAPP-Tgマウスにおける学習行動試験では、歯周病を発症していないマウスに比して明らかに認知機能障害が増悪していた。 2)歯周病を感染させた63~69週齢のAPP-Tgマウス脳における抗Ab抗体染色では、沈着する老人班の数と断面積が、非歯周病グループに比較して有意に増加していた。 3)歯周病を感染させた63~69週齢のAPP-Tgマウス脳をELISA解析したところ、皮質、海馬ともにAβ1-40, Aβ1-42とも非歯周病グループに比較して有意に増加していた。 4)歯周病を感染させた63~69週齢のAPP-Tgマウス脳内の炎症をELISAで解析したところ、IL-1β、TNF-αとも非歯周病グループに比較して有意に増加していた。 以上の結果は、歯周病の慢性感染が脳内アルツハイマー病分子病態の増悪を誘導することを示している。今後、さらにモデルマウスにおける病態解析を継続するとともに、口腔内の炎症や歯周病源細菌の影響が脳内に波及する機序を明らかにすることによって、その因果関係を明らかにできる。この関係が明らかになれば、歯周病の予防・治療を積極的に行う科学的根拠を提供することになり、歯周病の予防・治療が真に有効なアルツハイマー病予防法として確立され、国民の福祉に大きく貢献できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果から、歯周病の慢性感染が脳内アルツハイマー病分子病態の増悪を誘導することを示している。今後、さらにモデルマウスにおける病態解析を継続するとともに、口腔内の炎症や歯周病源細菌の影響が脳内に波及する機序を in vitroの実験系で明らかにすることによって、その因果関係を明らかにできるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた in vitroの実験の一部が、使用細胞(マウスミクログリア細胞株および血液・脳関門培養系)の調達が困難であったため行えなかった。そのため、本年度の研究費が余ってしまった。平成27年5月に同細胞の調達が可能となったため、余剰金を翌年度に繰り越し使用することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度行えなかった培養細胞を用いた実験を、平成27年5月より行う。調達した培養細胞を用いて、同細胞の歯周病関連細菌に対する反応性を調べる。ついで、血液・脳関門培養系における歯周病関連細菌の毒性を詳細に調べる予定である。
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