本研究ではAD発症における歯周病の関与に着目し、脳外に病態の首座を持つ歯周病がいかにして脳内AD分子病態に関与するかの分子機構を解明することを目的として、研究を行なった。 まず、歯周病関連細菌の一種であるPorphyromonas gingivalis(P.g)をマウス口腔内に接種することで、同マウスの歯槽骨に骨吸収を惹起することに成功した。P.g投与群では、行動試験においても認知機能の低下を認めた。また、脳内におけるAβの沈着面積はP.g投与群で有意に広く、Aβ量も有意に高かった。P.g投与群マウスの血液中には非投与群のそれに比べ有意に高いP.g抗体価の上昇が認められるとともに、血中リポ多糖(LPS)の上昇も認められた。さらに、P.g投与群の脳内では、非投与群と比較して有意に高くIL-1βおよび TNF-αの増加が認められた。また、P.g投与群の脳内には、LPSの存在も確認された。P.g LPSは、神経細胞からAβの産生を誘導すること、さらにミクログリア培養系において、Aβと共同して炎症サイトカインの産生を増強することが明らかとなった。一方、P.g菌を感染させ歯周病を発症させた野生型マウスでも認知機能の低下がみられたが、脳内のAβ40および42の濃度の上昇はみられなかった。血清中のTNF-αも歯周病群において上昇傾向にあったが、非感染群と比べて有意な差は認められなかった。咀嚼機能低下モデルマウスにおいても認知機能低下がみられたが、ADモデルマウスで認められた脳内Aβ沈着の増悪は認めなかった。65歳以上の高齢者を対象に、歯周病の病態とADの発症との関係を検討した結果、歯周炎性が強く認められた被験者では、ADの発症割合が高い傾向が認められた。以上の結果から、歯周病あるいは歯周病現細菌感染によって誘発される炎症反応が、ADの病態形成に関与している可能性が示唆された。
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