研究課題/領域番号 |
26293442
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
伊藤 博夫 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (40213079)
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研究分担者 |
佐野 茂樹 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (20226038)
安細 敏弘 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (80244789)
葭原 明弘 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50201033)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 予防歯科学 / 歯周予防学 / 唾液検査 / 歯科口腔保健 / 歯肉炎 |
研究実績の概要 |
現行の歯肉炎の検査・診断は,臨床家の高度な専門能力に依存しており,主観的な検査である。本研究プロジェクトでは,唾液あるいは歯肉溝貯留液のバイオマーカーを,検査機器を用いて定量的に測定することによる客観的な検査・診断法の確立を目指した3大学の共同研究である。 徳島大学では,高校生および専門学校生の男女279名の唾液と歯肉溝貯留液の歯肉炎罹患に関連するバイオマーカーの測定を実施した。試料検体の採取に当たっては,前年度の経験に基づいて,被験者による過度の口腔刷掃の影響をなくすために特別な配慮を行った。九州歯科大学と新潟大学では,各々の健診フィールドに固有の状況に合わせた歯肉の健診項目の中に,実施が可能なバイオマーカー検査を選択して取り入れた。3大学で,濾紙免疫クロマトグラフィーによる唾液中潜血検査は共通して実施した。本プロジェクトの1年目に葭原らが確立したデンシトメトリーによる客観的結果判定のシステムを徳島大学に移転し,3大学の免疫クロマトグラム検査の結果を一元的に測定する体制を構築した。 徳島大学薬学部の佐野は,オルトフタルアルデヒド法(OPA法)を改良した口臭原因物質チオールの有機化学的測定システムを開発したが,その実用化に向けて,反応試薬に使用する成分の最適化に取組み,安定した測定性を確保するために求められる化学構造上の法則性を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
徳島大学では,生活習慣等の影響を受けにくい安定な唾液検体のサンプリング方法として洗口吐出液を採用し,サンプリング前の12時間以上,口腔清掃を禁止し,遊離ヘモグロビンと乳酸脱水素酵素の濃度を生化学的に測定した。歯肉溝内に貯留した滲出液を毛筆による毛細管現象を利用したブロッティング法で採取し,その希釈液中のアンチトリプシンとラクトフェリンの濃度を測定した。一般の高校生および専門学校生279名の男女の検体を測定し,濃度の分布形態を検討したところ,いずれのバイオマーカーにおいても片側正規分布ないしポワソン分布に類似したヒストグラムが描画されたことから,これらのバイオマーカーの正常範囲は,片側90%タイルなどのように設定することが可能なものと推測された。 九州歯科大学では,小学校5~6年生の男女107名に対して,既存の歯肉の健康指標をとして,目視による炎症の有無判定とCommunity periodontal index (CPI) を行うとともに,バイオマーカー検査として歯肉溝貯留液のアンチトリプシンとラクトフェリン濃度の検査を実施した。新潟大学では,小学校6年生の男女65名を対象に,既存の歯肉の健康指標をとして,目視による歯肉発赤の有無判定,Bleeding on marginal probing検査を上下顎前歯部唇側に対して実施するとともに,バイオマーカー検査としては,洗口吐出液の遊離ヘモグロビンと乳酸脱水素酵素の検査を行った。このように3大学でバイオマーカー検査を健診フィールドに取り入れる体制が確立できた。2年目に実施したバイオマーカー検査値と臨床所見の関連性についての詳細な分析については現在進行中である。薬学部の佐野は,オルトフタルアルデヒド改良法による口臭原因物質チオールの有機化学的測定の実用化に向けて,安定した測定性を確保するための試薬成分の化学構造上の法則性を発見した。
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今後の研究の推進方策 |
非侵襲的に採取が容易な唾液あるいは歯肉溝貯留液を試料とする,客観的な歯肉炎の診断指標として,医療施設の臨床現場だけでなく,地域・職域の健康診断フィールドでも利用できる実用性の高さと簡便性を兼ね備えた検査項目として,過去2年の本研究の成果に基づき,唾液(洗口吐出液)の潜血反応と乳酸脱水素酵素の測定,歯肉溝液のアンチトリプシンとラクトフェリンの測定を選択する。 徳島大,九歯大,新潟大に各々の調査フィールドを設定し,測定手技・条件は3大学で共有し,3大学が協力しつつも独立して疫学調査研究を実施する。プロービングや視診による旧来の主観的診断法については,各フィールドの事情により実施可能な範囲で併用し,旧来法の検査結果と新しい検査項目との一致度についての分析を行う予定であるが,一致させることは必ずしも本研究の目的ではない。 現状においては高い専門的な技術が要求されるために3大学での共通検査項目として実施するのは困難と判断したサイトカインプロフィール,TFLPを用いた細菌フローラプロフィール,酸化ストレス/抗酸化度等の各項目については,将来の応用可能性を拡大させる目的で,各大学で分担して調査を継続する。徳島大学では,視診と触診による既存の詳細な歯周組織検査と唾液サイトカインとの関連性を検討する研究については研究倫理委員会の審査承認を経て,被験者の確保に取り組んでいる。 徳島大学薬学部の佐野が中心となって進めてきた,唾液を用いた口臭の検査システムの開発について,実用化に向けての研究を推進するとともに,新規のペプチドチップを用いた唾液の反応性プロフィールの評価を試み,新しい口腔健康度測定法の開発の可能性について検討する。以上により,各フィールドの特徴に応じた大学ごとの分析結果・考察と,全体結果を統合し,新しい客観的な歯肉炎症検査システムの有用性と,将来の更なる改良の道筋を示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者が資料整理を自ら行って研究補助のアルバイト費用を節約したこと,旅費を節約したことにより次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後被験者を増やして検査を行うため,消耗品費等が増加する。国際学会での発表も予定しており旅費も増加が見込まれる。
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