薬剤耐性菌の出現は世界的な問題である。医療者の手指衛生は院内感染防止の最重要ポイントであり、上下水道の整備が十分でない諸外国では。流水による手洗いが困難な場合も多く、薬剤に頼らざるを得ない状況もある。本研究では、長期間手指衛生に薬剤を使用してきた看護師の手指表面の常在菌について、日本とフィリピン共和国で調査・比較するものである。 フィリピン共和国での倫理審査申請や研究協力者の獲得、サンプル採取の円滑化のため確実な連携研究者は、本研究の最重要ポイントであった。研究を実際に開始するにあたっては、研究者の異動等もあり、若干の修正もあったが、ほぼ予定通りに研究体制を整えた。その体制の下でサンプル採取を行う大学の研究倫理審査委員会より承認を得て、4年生と1年生よりサンプルの採取を行うことができた。日本についても、倫理審査終了後にサンプルを採取し、それぞれ培養後にコロニーの形状やグラム染色によるグルーピングを行った上で、単一コロニー培養した細菌のコロニーダイレクトPCRによる16SrRNA遺伝子の増幅と精製、配列分析を行い、種の同定を行うという工程を経て、擦式消毒剤長期使用群と未使用群の差や、国による常在細菌の分布を比較しているところである。 日本の看護師と学生ではその常在細菌の分布に明らかな違いが見られ、フィリピンでも同様の傾向が見られた。フィリピンと日本では常在細菌の分布に違いがみられる傾向にあるが、サンプルの保存や処理の方法が全く同様とは言えないため、それによる違いとも考えられた。現地で、日本と同様の保存や処理。操作の行える研究者を養成し、厳密な比較を行うことができれば、より高度な比較が可能となると考える。 消毒剤の使用の増多や普及の状況から、今後も常在菌叢の変化は必至と考えられる。経年的にデータを蓄積することも、世界的な課題と考えられた。
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