研究課題/領域番号 |
26300011
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研究機関 | 島根県立大学 |
研究代表者 |
李 暁東 島根県立大学, 総合政策学部, 教授 (10405475)
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研究分担者 |
平石 耕 成蹊大学, 法学部, 教授 (00507105)
江口 伸吾 島根県立大学, 総合政策学部, 教授 (20326408)
唐 燕霞 愛知大学, 現代中国学部, 教授 (80326404)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社区自治 / つながり / ガバナンス |
研究実績の概要 |
①2015年8月、科研メンバー一同で中国南京市の社区を中心に現地調査を行った。社区居民委員会の主任にインタビューを行い、居民委員会が主導して設立した「社会工作事務所」のあり方や運営について調査した。また、現場の社区工作者との座談を通じて、南京市の社区建設の最新動向について認識を深めた。 ②9月、南京調査に参加した科研メンバーが成蹊大学に集まり勉強会を行った。南京での調査で得られた知見を議論を通して共有したとともに、年度末のワークショップの構想について話し合い、方針を決めた。 ③2016年2月、東京大学の宇野重規教授、大阪市立大学の松永桂子准教授、南京調査の現地研究協力者である南京大学の肖萍准教授を招き、島根県立大学で科研ワークショップ「基層社会の自治と「つながり」の形成――中国と日本」を行った。研究代表者李暁東は「『百姓社会』:社区自治と『つながり』の形成」、宇野重規氏は「社会的紐帯の政治哲学:トクヴィルを中心に」、松永桂子氏は「人口減少著しい中山間地域のコミュニティづくり」、肖萍氏は「中国の都市部における社区ガナンスシステムの構築―江蘇省を例にして」という題でそれぞれ報告を行い、日中両国の社会ガバナンスに関する考察を行い、両国の異同を確認したとともに、それぞれの問題点や可能性について議論した。 ④2月、研究代表者李暁東と研究分担者唐燕霞氏は、現地研究協力者の張永宏氏の協力の下で、深セン市の社区建設に関する調査を行った。招商街道の公共サービスの社会化と市場化の取り組みや、南山街道の「人大代表連絡ステーション」の設立の取り組みについて調査を行った。 ⑤3月、研究代表者李暁東が福建省の厦門思明区で展開されている社区建設について調査し、「街頭ダンス」と高齢者の活動や組織の特徴について聞き取り調査を行った。また、泉州の華僑大学で現地の研究者と社区研究について意見交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2015年度に基層社会の社区の自治と「政治」の役割と、「つながり」の形成、という二つの視点を中心に、中国都市部社区に対する調査と、ワークショップの開催を実施した。一年間の研究、調査活動を通して、年度目標を達成することができたと思われる。 まず、社区に対する調査では、南京市と深セン市の社区建設情況を調査した。調査過程で、南京市の居民委員会の主導で創設した「社会工作(ソーシャルワーカー)事務所」の取り組みと、深セン市における公共サービスの社会化と市場化の取り組みは、いずれもこれまでの調査になかった新しい取り組みであることが判明した。また、深セン市南山街道の「人大代表連絡ステーション」の設立の取り組みは、数年前と比べて広く普及されており、制度化が進められていることが分かった。今年度の追跡調査を通して、中国における「社区建設」が新たな段階に突入したことを実感させられた。「社区建設」の深化の内実を確認し把握ができたことは、今年度の調査の大きな収穫であった。また、深セン、泉州で中国現地の社会学者との研究交流を通して、中国の社区研究の最新情況を知ることができた。さらに、年度末のワークショップでは、中国の社区研究の専門家と日本の地域研究の専門家が一堂に集まり、原理と実践の両方から地域社会の「つながり」と「政治」の役割について議論を交わした。ワークショップは、日本との比較の視点を導入することによって、中国社会についての研究はただ特殊論として自己完結せず、より普遍的な視野の中で捉え直すことの可能性を示した。総じていえば、2015年度の中国現地での調査と研究集会での議論は、中国における社区建設の最新情況を把握できたと同時に、より広い視野を獲得することができたと言える。研究対象に対する考察の進展が、次年度の研究展開で活かされることができると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
1.現地調査:前年度に引き続き、中国での現地調査を通して、「社区建設」の現状を把握し、そのゆくえについて考察していく。数多くの社区建設「模式」の中で、特にこれまで調査したことのある地域を再訪することによって、社区建設の発展情況と最新現状を明らかにしたい。具体的には、中国現地の研究協力者の協力のもとで、北京、南京、西安、昆明などを調査候補地にして、これまで調査したことのある各地の特色のある社区について追跡調査を行う予定である。なお、調査方法は、これまでと同じく、社区における居民委員会の責任者や、ボランティア活動のリーダー、各種社会組織のリーダー、民政部門の担当者に対する聞き取り調査とアンケート調査を中心とする。 2.前年度同様に、現地の研究協力者のアレンジのもとで、中国の社区研究者をはじめとする社会学者と意見交換をし、研究交流を深める。年度末に中国から専門家を招いて、日本国内で国際ワークショップを開催して、研究成果の中間発表を行う。 3.資料収集:海外調査地で各種の統計資料、関連分野の最新研究成果など書籍、資料を引き続き購入するなどをして、収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終回の海外調査は年度末に実施した。事前にとっていた予算と実際の使用額に誤差が生じたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた少額の次年度使用額を次年度の予算の「その他」の部分に組み込んで使用する予定である。
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