研究課題/領域番号 |
26300027
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
沼本 宏俊 国士舘大学, 体育学部, 教授 (40198560)
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研究分担者 |
山田 重郎 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 教授 (30323223)
久米 正吾 東京藝術大学, 社会連携センター, 特任講師 (30550777)
柴田 大輔 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (40553293)
西山 伸一 中部大学, 人文学部, 准教授 (50392551)
小高 敬寛 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (70350379)
下釜 和也 (財)古代オリエント博物館, その他部局等, 研究員 (70580116)
眞保 昌弘 国士舘大学, 文学部, 准教授 (60407202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イラク / クルディスタン / メソポタミア / ヤシン・テペ / アッシリア / 歴史考古学 / 公共的建造物 / 拠点遺跡 |
研究実績の概要 |
本研究は、イラク北東部クルディスタンで前2~1千年紀の歴史時代(古バビロニア、ミタンニ、中・新アッシリア)の大型拠点遺跡の発掘調査を行い、公共的建物跡や楔形文字資料の発見を目指し、考古・文献資料から同時代の未だ不明瞭な諸問題の解明を主眼とする。 本年度はイラク・クルド人自治区スレマニア県のシャフリゾール盆地にある同地域で最大級の規模を誇るヤシン・テペ遺跡の発掘調査を実施した。同遺跡は約700×800m、高さ約25mで歴史時代の連続した層位の包含が予測され、本研究課題を遂行する上で最適の遺跡として本科研申請時から最優先発掘候補遺跡にしていた。本遺跡は中央の遺丘部「上の町」とその外周を囲む平坦部「下の町」に分かれるが、今回の調査は「下の町」の発掘を実施した。20×30mの範囲を発掘し表層から80cmの深さまで掘り下げた結果、3期に分かれる新アッシリア時代の遺構を検出した。特筆すべきは最下層から長さ約14m、幅約6mの長方形の同時代後期の典型的な「レセプション・ルーム」構造を有した建物跡を検出したことだ。建物跡は日乾煉瓦造であったが、壁跡は基礎の石積のみが残存する。部屋内の床からは方形の供物台状の焼成煉瓦敷き遺構を確認した。南壁には観音開き状の出入口があり、外側には焼成煉瓦敷きと石敷きで構築された中庭が広がっていた。この建物跡の構造と規模は同時代の拠点都市の宮殿、神殿に類例が多いことから、公共的建物であったことが明らかになった。 今回の調査で上記の公共的建物跡を検出したことから、ヤシン・テペ遺跡は同地域のアッシリア帝国の拠点であったことが確実になった。さらに発掘を継続すれば楔形文字資料の出土が大いに期待され、同遺跡の古代都市名を同定できる可能性が強くなった。これまで未知であったアッシリア帝国東部辺境の支配体制・社会・政治・経済・文化の実体解明への糸口となる成果をあげたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では初年度からヤシン・テペ遺跡の調査を実施する予定であったが、イスラム国の台頭により同調査は延期になり、本年度になりやっと実施することができた。3カ年予定どうり発掘調査を実施していたならば、文字資料を発見することも可能であったと思われる。文字資料の発見と解読を本研究課題の主目的にしているため、予定どうり研究が進行しているとは言えない。また、今回のヤシン・テペの発掘調査には研究分担者3名が参加したのみで、現地での出土遺物の整理、図化、写真撮影、観察等の作業は十分に行われていない。充実した発掘成果報告書を出版するには時間がかかる。
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今後の研究の推進方策 |
調査遺跡のあるイラク、クルド人自治区スレマニア県の政情も不安定で、今後、計画どうりに調査が実施できる保証はない。従って、今後の研究は本研究課題遂行の基盤になったイラク北部、シリア北東部での発掘調査で出土した資料の整理分析に重点を置きたい。特に、シリア、テル・タバン遺跡出土の未公表土器群を分析し、本研究の主眼である古バビロニアから新アッシリア時代までの土器編年を確立したい。また、同遺跡出土の未解読文字資料の分析も並行し進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の主目的はイラク、クルド人自治区での遺跡発掘調査のため、予算の大半をその費用に充当している。 本年度は同地域のヤシン・テペ遺跡の発掘調査を実施した。しかし、現地の治安状況が危惧されたため、研究代表者は所属機関から出張許可が下りず調査に参加できなかった。故に当初予定した旅費、現地での謝金等の費目予算を予定どうり使用することが出来なかったため余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究分担者の数名は現地調査に参加するので、旅費や発掘の人件費に使用したい。一部予算は国内での資料の整理分析作業に使用したい。
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