研究課題/領域番号 |
26301014
|
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
高橋 若菜 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (90360776)
|
研究分担者 |
吉田 綾 国立研究開発法人国立環境研究所, その他部局等, 研究員 (10442691)
伊藤 俊介 東京電機大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50339082)
沼田 大輔 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (70451664)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 循環型社会 / 国際規範 / 経済的合理主義 / アジア / 欧州 |
研究実績の概要 |
3年目である27年度は、①国際規範に関する理論研究、②循環型社会形成分野における国際規範と、関連の国際・国内政策の動向レビュー、③実証研究1(OECD諸国)、④実証研究2(非OECD諸国)、⑤比較考察、の研究項目全てについて同時並行で進めた。まず、①⑤については、政治学専攻の研究代表者髙橋が、関連文献収集や講読を進めた上で、アクター分析の分析概念やその適用方法について、研究分担者と度重ねて議論した。②については、研究代表者高橋が、書籍1章分を書き下ろした(2017年度刊行予定)。③実証研究(OECD諸国)については、研究代表者髙橋がスウェーデンおよび日本、分担者伊藤がスウェーデンについて、それぞれフィールドスタディを進めた。④については、研究代表者・分担者全員が中国へ渡航し、上海および北京にて、現地視察や聞き取り調査を重ねた。個別具体的には、研究代表者髙橋は、スウェーデンの家庭資源ごみ分別排出システム整備急増についてヒアリング等のデータを積み重ねた。また、アクター分析の手法に関して、新刊著書の1章において理論的考察を展開した。研究分担者伊藤は家庭ごみ分別の国際比較・ライフステージ比較を進め、実施済みの調査データにスウェーデンの一般世帯についてのデータを加え分析を行った。研究分担者沼田は、デポジット制度・店頭回収について、、スウェーデン・ドイツ・日本の歴史的経緯を対比させることでアクター分析につなげる道筋をつけた。研究分担者吉田は、中国を含む東アジアの使用済み電子電気機器の拡大生産者責任(EPR)制度について、制度の構造、マテリアルとキャッシュ・フロー、回収率を比較した論文をJournal of Material Cycles and Waste Management誌に投稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、循環型社会系成分野における国際規範の受容に多様性が生じる要因を分析することをめざしている。数ある国際規範の中で、本研究が関心を寄せてきたのが、拡大生産者責任、デポジット、ごみ有料化等、政策原則という形での国際規範であった。いずれも、生産者や消費者にごみ減量、分別リサイクルや環境設計を促すことが出来るとして、1990年代から国際社会に徐々に広がってきた、経済的合理主義に基づく国際規範である。関連する先行研究の多くは、制度設計や実態調査など経済学的・社会学的考察であった。一方、先行研究に不足していたのは、第一に、回収プロセスへの関心である。適切な回収システムを欠くと、リサイクル率は低迷し、環境汚染の発生も免れ得ない。もっと注目されていてよいテーマである。第二に、国によってなぜ違いが出るかという説明である。こうした先行研究の不足に鑑み、本研究では、都市ごみの廃棄物・資源回収プロセスにおける多様なアクターの相互関係に焦点をあて、その国際比較を行なう方向に収斂してきた。 国際比較を行う視座は、本研究では極めて学際的である。政治学・経済学・心理学・政策学の立場から多視点的に把握することを目指している。その理論的考察や比較事例分析の方法について、具体的に議論を重ねることができたのは、今年度の大きな成果であった。 事例調査についても、OECD諸国については、欧州・アジア双方について、研究代表者髙橋、研究分担者伊藤が、着実にデータを積み重ねることができた。また、非OECD諸国についても、分担者吉田の尽力で、全員で中国を訪問し、それぞれの視点から上海及び北京で視察を重ねることができた。これも大きな成果である。 一方、非OECD諸国の実証研究のうち、欧州についてはやや遅れている。2017年度に、現地調査を行うことで合意は出来ている。 以上から、概ね順調に進んでいると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の「現在までの進捗状況」において明示した通り、2016年度は、分析枠組および比較分析事例の方法について、研究者間での共有や理解が大幅に進んだ。 最終年度となる2017年度は、これらの成果を統合させ、都市ごみの廃棄物・資源回収をテーマとして、政治学・経済学・心理学・政策学の立場から国際比較を多視点的に行い、その成果を学会の場で公表する。すなわち、2017年9月に開催される環境科学会年会において、シンポジウムを主催する。具体的な報告テーマとしては、家庭ごみの分別収集の日瑞比較(高橋)、デポジットと店頭回収システムの日欧比較(沼田)、分別排出の担い手としてのユーザーの意識や行動の影響要因に関する日瑞比較(伊藤)、家電廃棄物の日中韓のアクター分析(吉田)を想定している。さらにこれらの成果を、学会誌で特集を組む形で、まとめて投稿する。 こうした研究のとりまとめと並行して、実証研究も補足的に進める。まず、先進国での実証研究については、北欧は研究代表者髙橋と研究分担者伊藤が、日本は全員が随所にて、それぞれフィールド調査を進める。④実証研究2(非OECD諸国)については、年度末に中国を再度全員で渡航し、比較考察のための知見を深める。とりわけ、北京では、行政を通さない、スカベンジャー、社区をベースとした収集システムが従前より存在していたが、これらが近年変質してきていること、とりわけ、中国流の店頭回収システムが近年大幅に拡大していることに鑑み、最新動向をおっていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、当初の計画と比べて未使用額が35万円となった。その主たる要因は、当初予定していた4人全員での韓国調査を見合わせたことによる。ただし、そもそも申請時から実際の交付額は、4割の費用減額があったことからすれば、実証研究(先進国)を、韓国で行うと、スウェーデン、日本での実証研究の実施が手薄になることへの懸念が当初よりあった。本研究では、すでに欧州アジアから実証研究を1ヶ国ずつ選定できていることから、今般の研究では、韓国の事例調査そのものを見合わせ、その分をスウェーデン、日本、中国調査の充実へ振り向けていくこととした。
|
次年度使用額の使用計画 |
まず、分析枠組や比較事例分析結果を互いに共有し議論する目的で開催する研究会の旅費・会議費、学会シンポジウムを主催するための会議費等を計上した。 次に、実証研究1(先進国)については、日本(全員:年度を通じて実施)及び欧州(研究代表者高橋および研究分担者伊藤:平成29年度夏季を想定)におけるフィールド調査のための旅費を計上した。④実証研究2(非OECD諸国)については、エストニアとリトアニア(研究代表者高橋および研究分担者伊藤、沼田:平成29年度夏季を想定)、中国(全員:平成30年2-3月)にフィールド調査を行うための費用を計上した。 このほかに、各研究メンバーにおける基本的な物品費(図書等)に加え、アンケート分析ツール(サーベイモンキー)の年間使用料、欧文翻訳やネイティブチェックのための費用も、謝金として計上した。
|