研究課題/領域番号 |
26301021
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
高橋 和志 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (90450551)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インデックス型マイクロ保険 / リスク / 脆弱性 / エチオピア |
研究実績の概要 |
途上国乾燥地帯に住む牧畜家計にとって、最大のリスクは旱魃による家畜の餓死である。家畜は人的資本を除き最重要の生産的資本である。そのため、家畜の死亡は、将来の稼得能力の著しい低下を引き起こし、貧困・食料危機を長期化させうる。公的保険が利用できれば望ましいが、途上国農村部の保険市場には、情報の非対称性に起因する問題が伴い、市場メカニズムを通じたパレート最適の実現は、従来、困難とされていた。本研究では、「市場の失敗」が生じにくいインデックス型家畜保険(IBLI)をエチオピア南部乾燥地帯で導入し、その妥当性・有効性を究明することを目的としている。 今年度はIBLI需要に関するこれまでのフィールド実験の結果を分析した。結果からわかったことは主に以下の三点である。第一に、保険需要は価格に感応的で、保険料の割引クーポンをもらった家計ほど購入率が高くなる。いったん値下げをすると、それが価格参照点となってしまい、後に公正な価格に戻ったときに、購入率が低まることが危惧されたが、そうした影響はなかった。第二に、ランダムに学習キットを与えられた家計は、われわれが課すIBLIの理解度テストの成績がよく、商品知識が有意に向上した。しかし、商品知識の改善によって需要が刺激されることはなく、理解不足が保険需要を妨げているのではないことが判明した。最後に、経済理論が予測するように、リスク回避的な家計ほど、保険を購入する傾向にあることがわかった。インデックス型保険は、適切にデザインされないと、保険支払の基準となる天候指標と、実際の損失との相関が弱まり、ギャンブル性を持つため、既存研究では、時にリスク愛好的な人ほどインデックス型保険を購入するという結果も見られていた。リスク回避的な人ほどIBLIを購入するというわれわれの結果は、家畜保険デザインが比較的うまく機能していることを示唆していると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、保険需要分析を行うことができた。また、予定されていた家計調査も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
降雨量の不足から、昨年は観察開始以降、初めてインデックス保険の支払いが行われた。そこで、この結果に関する家計調査を今年度序盤に実施し、IBLI の購入が、家計の経済厚生や旱魃時のリスク管理・その他の生計戦略にどのような影響をもたらすか因果的効果を特定する。また平行して、IBLIを導入することで既存のインフォーマルな相互扶助機能がどのような影響を受けるか分析を行い、貧困削減効果をより高めうる保険デザインに関して新たな知見を提供することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた家計調査の一部を次年度に実施するため。
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次年度使用額の使用計画 |
主に家計調査や現地出張などに利用する。
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