本研究では、エチオピア南部乾燥地帯のボラナ県において家畜インデックス保険(IBLI) を試験的に販売し、IBLI の需要の決定要因と経済厚生・生計戦略への影響を計量経済学的な仮説検定によって明らかにすることを目的とする。また、その実証結果から得られたパラメーターに基づき構造推定を行い、様々な環境のもとでのIBLI の需要、経済効果を数値シミュレーションによって解明する。 IBLIの需要研究からは、保険需要が価格に感応的で、価格が安いほど購入率が高くなること、また、IBLIに関する商品知識の改善によって需要が刺激されることはなく、理解不足が保険需要を妨げているのではないことが判明した。フォーマルな保険を購入することで、インフォーマル・ネットワークに頼る必要性が薄れるため、既存のリスクシェアリング・ネットワークから離脱する「クラウド・アウト」効果が懸念されたが、そうした傾向は見られず、むしろ、知り合いがIBLIを購入しているとその人との結びつきをかえって強めることがわかった。 経済効果分析からは、実際にIBLIを購入した家計の間では、主観的な生活の満足度は高まるものの、消費などの厚生水準にはほとんど影響がないことが明らかとなった。また、旱魃時にも重要資産である家畜が保護される安心感から、よりハイリスク・ハイリターンの行動を取ることが予想されたが、そうした効果は見つからなかった。これらの結果は、実際に保険支払いを受け取った家計と受け取らない家計の間にも大きな違いはなかった。 最後に、シミュレーション結果によると、ベーシス・リスク(実際の被害額と補償額に乖離する危険性)が存在するIBLIのようなインデックス保険では、リスク回避的な家計は、IBLIを購入するより、家畜頭数を増やすことで、異時点間の生活安定化を図る方が、経済厚生が向上する可能性があることも示された。
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