研究実績の概要 |
ドイツ文部科学省からの招聘により,ベルリン・フンボルト大学国際研究所リ・ワークプロジェクトのフェローとして,9月末からベルリンに滞在しつつ調査を進めた。研究の一つの焦点として, フンボルト大学およびドイツ国立図書館においてドイツ帝国統計・ドイツ連邦統計局統計年報などのマクロデータの収集と分析を行いつつ,特にサービス産業,その中でも小売業における労働時間の柔軟化について集中的に関係文献・資料の収集と分析を進めた。それと同時に,ドイツサービス労働組合, ドイツ小売業連盟にインタビュー調査を行った。また介護労働について介護時間のための法制度の改定についての分析を進めた。すでに別のプロジェクトで行ってきたミニジョブ・センター,ドイツ労働組合総同盟,ドイツサービス労働組合,小売業企業へのインタビュー調査も踏まえつつ,京都の世界経済史学会での英語報告,10月のプロジェクトでのコンファランスでの報告,11月の社会政策学会(西南学院大学)での報告,1月のサンフランシスコでのアメリカ社会科学学会のコンファランスでの英語報告などの形で,研究成果の一部をすでに発表してきている。また6月には朝日新聞の記事として研究成果の一端が掲載された。2月にはベルリン・フンボルト大学での講演会においてドイツ語での報告を行った。さらに3月にはベルリンで二日間の国際シンポジウムを組織し, サービス産業における女性の働き方について,自身も二本のフル・ペーパー(英語)の作成および二本の報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに背景となる歴史的なマクロ・データの整理についてはおおかた目処がつき, 一部は分析も終了してきているだけでなく, 労使団体へのインタビューや企業・関連組織・個人へのインタビュー調査も進んでいる。法制度の概要および実際の企業レベル・職場レベルでの運用についての分析も進んでいる。 また, コンファランス・講演会での報告や国内外での学会報告もアメリカ・ドイツ・日本で行い, 関係する研究者との意見交換・ディスカッションも進めてきたため, これまでよりも考察が一歩一歩深まりつつある実感がある。 学会報告向けに, 日本語, 英語, ドイツ語のフル・ペーパー, プロシーディングズをそれぞれ書き上げることができた。これをもとにしてそれぞれの言語で投稿する下地が整ってきた状況にある。また, 関係研究者とのディスカッションから投稿先ジャーナルの目処もついてきた。 ただし,ジャーナルに投稿するにはまだ研究史の把握がやや不足しており, 統計的な長期分析についてもさらにデータをプラスして考察していくことが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方として,まず日本語・英語・ドイツ語での投稿論文を完成させることを目標とする。そのために, まず第一に研究史のサーベイを集中的に行い, 研究をより的確に位置付けていく必要がある。特にまだ読み切っていないドイツ政府(青年家族省・労働社会省)やWSI, HBS, IBA,ベルテルスマン等の研究所の報告書を踏まえた上で, 多くの研究論文を確認していく必要がある。 第二にドイツ国内の研究機関でしかアクセスできないデータベースや調査手段を使って, 論文の証拠となるデータを集めて分析していくこと。特に政府SOEPデータへの直接のアクセスが確保できるよう, フンボルト大学とも交渉してデータを活用できるようにしていきたい。 第三に, すでにこれまで行ってきたものに加えて, できる限り多くの組織や個人にインタビュー調査を行い, マクロデータをミクロレベルの事例研究から補強し,実態の運用を検証すること を進めていきたい。 また同時に,関係する研究者のネットワークを強め, 最終年度の日本での国際シンポジウムの開催に向けて, 研究内容を含めた打ち合わせを行い, より成果の大きなシンポジウムとなるように土台づくりを行っていく。
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次年度使用額の使用計画 |
ドイツ長期出張中に行う予定のインタビュー調査や国際会議・学会での報告のために, 通訳・テープ起こし・英文校閲・翻訳作業等などを複数回行う予定である。夏には国際経営史学会での報告が決まったため,オランダ・ユトレヒトにも出張滞在することとなった。またドイツの長期出張が夏で終了するため,収集した文献資料等を日本に送付する必要がある。ドイツから日本に戻ったのちには, 短期雇用の補助者を雇用して資料整理を行う予定である。
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