研究課題/領域番号 |
26302005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂野井 健 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80271857)
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研究分担者 |
鍵谷 将人 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30436076)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | オーロラ / 超高層物理学 / プラズマ加速 / 装置開発 / 極域環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、世界で初めてオーロラの「発光スペクトルの広視野偏光分布」を観測する装置を用いて複数のオーロラ輝線の偏光空間分布を同時観測し、オーロラ発光の偏光の有無に決着つけることを目的とする。このために、H26年度は、まず春に前年度アラスカで行われたオーロラ偏光観測に用いられたプロトタイプの装置の回収を実施した。その後、前年度に取得されたオーロラ偏光装置のデータ解析を行った。この結果を踏まえ、研究に要求される精密なオーロラ偏光測定の達成のためには、広視野オーロラ偏光イメージングスペクトログラフの校正用光源ユニットの開発が必要なことと、大気粒子による偏光の影響を見積もりために、恒星を光源として大気による偏光を定量的に観測する、ウォラストンプリズムをもちいた変光望遠鏡の新規製作という、2つの装置の開発を行った。 この後、10月に北米アラスカでの観測器の設置を行い、オーロラ偏光観測を開始した。この観測について、翌年3月末すぎまで連続的に行うことに成功した。このデータ解析の結果、偏光望遠鏡観測から大気粒子の偏光の影響は無視できることが分かった。次に、広視野オーロラ偏光イメージングスペクトログラフのデータ解析の結果、酸素原子630nm発光について、従来の観測通り数%の偏光がみられ、それが天頂角依存性をもつことが明らかになった。さらに、オーロラ活動に依存して偏光度が変わることがわかった。加えて、酸素原子557.7nm発光についても数%の明らかな偏光が観測された。この557.7nm発光は理論的に偏光が起こらないはずなので、この原因は大きな謎である。この問題について、現在、観測装置上の問題と、自然現象の両面から検討を進めている。これらの成果に基づき、1名の学生が大学院修士課程を修了した。また、これらの研究成果は、国内外の学会・シンポジウム等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で目的としている、「発光スペクトルの広視野偏光分布」を観測する装置を用いて複数のオーロラ輝線の偏光空間分布を同時観測することを、H26年度内に成功させた。とくに、前年度のプロトタイプによる観測結果の評価から、広視野オーロラ偏光イメージングスペクトログラフの校正用光源ユニットの開発と、ウォラストンプリズムをもちいた偏光望遠鏡の新規製作という、2つの開発に絞って研究計画を推進した。従って、後者については、計画調書申請後に新たに変更された開発内容であるが、結果的に、研究に要求される精密なオーロラ偏光測定が可能となった。 また、計画通りに、10月に北米アラスカでの上記2つの観測器の設置を行い、必要とされる校正作業を行うことに加えて、翌年3月末すぎまで連続的なオーロラ偏光観測データの取得を得ることにも成功した。この結果、偏光望遠鏡データをもちいて、オーロラ偏光と大気粒子偏光を分離した精密な測定が可能となった。さらに解析をすすめ、酸素原子630nm発光について、従来の観測通り数%の偏光がみられ、それが天頂角依存性をもつことを確認した。一方で、酸素原子557.7nm発光についても数%の明らかな偏光が観測されたが、これは予想外の結果であり、大きな謎である。この問題について、現在、観測装置上の問題と、自然現象の両面から検討を進めている。 以上のとおり、装置開発を達成し、計画通りにオーロラ偏光の連続長期観測を達成した。この結果、予想された結果と、予想外の結果の両方を得ることができ、今後の研究の新たな課題が明らかになった。したがって、当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後について、まずH27年度前半には、広視野オーロラ偏光イメージングスペクトログラフ用の校正用光源ユニットの改良を進める。前年度の校正作業で得られた経験をもとに、H27年度はさらに効率的な校正作業が可能なユニットを製作する。その後、冬期間に北米アラスカに赴き、校正作業ならびにオーロラ偏光観測を開始する。この観測は翌年春まで連続的に行われる予定である。 また、昨年度取得された観測データの解析、ならびにH27年度に観測が開始されればそのデータの解析を進める。とくに、昨年度の解析で問題となった、酸素原子557.7nmの偏光の原因について、装置と自然現象の両面から究明する。また、酸素原子630nm偏光のデータ解析についても、偏光度の時空間変動を調べ、とくにサブストームなどのオーロラ活動度依存性を明らかにする。さらに、H28年度を含んだ計画については、オーロラ偏光観測と、他の観測装置との共同観測データを比較する。とくに、ポーカーフラットの地上非散乱干渉レーダー(PFISR)との同時観測により得られる電離圏パラメータ(電場、イオン温度、電気伝導度等)との関係を明らかにし、電離圏不安定現象について調べる。これに加えて、DMSPやTHEMIS衛星などの極域上空における降下電子データならびに磁気圏データと比較を行い、オーロラ偏光度の変動を引き起こす原因についても解析を進める。 これらの研究成果は、学会・シンポジウム等で発表するとともに、査読付き論文に投稿を行い、広く公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度も、昨年度同様アラスカに冬期観測に行く予定であり、観測機器設置作業、校正、初期観測データ取得のために、2名で2-3週間程度の滞在を計画している。この場合、昨年度までの実績に基づくと、機器輸送費やレンタカー代も含めて、一人当たり50-80万円必要である。加えて、校正光源ユニットの改良を行う必要があるため、そのための費用も必要である。このため、H26年度の一部を残し、次年度使用とすることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は、直接経費が補助金130万円、基金60万円の合計90万円の予定である。これに次年度使用額が加算される。 これに対し、7-9月にかけて、装置開発・改良(校正光源ユニットの改良等)のために約50万円、10月ないし11月ころに予定されているアラスカの観測経費(2名で2-3週間程度滞在)で約160万円、その他の経費で約30万円を使用計画している。
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