研究課題/領域番号 |
26303009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大津 宏康 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40293881)
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研究分担者 |
立川 康人 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40227088)
小林 晃 関西大学, 工学部, 教授 (80261460)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地盤工学 / 自然災害 |
研究実績の概要 |
チェンマイの風化花崗岩残積土盛土斜面(C-サイト)において,前年度回収した計測器を再設置し,原位置計測データ(体積含水率・サクション・表面流出量)の蓄積を図るとともに,原位置で電気探査を実施し乾季と雨季での斜面表層部の地盤の湿潤状況の変動特性を調査した.この結果として,以下の知見が得られた. まず,乾季(5月)の計測器設置時に,受信機設置間隔20cmとした電気探査を実施した結果,深度0.4m~1.0mの浅層部に周辺に比較して相対的に高い比抵抗値を有する箇所が斜面勾配に沿って分布することが確認された.また,雨季(9月)に同様の手順で電気探査を実施した結果では,当該箇所と周辺部との明確な比抵抗値の相違は認められなかった.この結果より,深度0.4m~1.0mの浅層部には,降雨浸透により細粒分が流失したため高空隙領域が形成され,乾燥時には高い比抵抗値を示すが,湿潤時には比抵抗値が低減する可能性があることが推察された. 次に,原位置計測の内,同斜面で計測された表面流出は,先行研究のプーケットの風化花崗岩残積土切土斜面(P-サイト)での計測結果に比較して,細粒分が多くかつ飽和時の透水性が低いにもかかわらず,全般的に小さい量であることが明らかになった.この相違について原位置計測データを分析した結果,C-サイトでの降雨時の斜面表層部の体積含水率の増加量が,P-サイトに比較して極めて大きいことが判明した.この結果と電気探査結果を組み合わせることで,以下の事項が推察される.すなわち,当該サイトでは,表層部には細粒分が残存し,深度0.4m~1.0mの浅層部に高空隙領域が存在することで,キャピラリーバリアーに類似した状況が発生し,降雨時には表層部に水分が貯留され,その下部の空隙を有する土のWater entry valueを上回った場合のみ浸透が発生するため,表面流出量は,P-サイトに比較して小さくなることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年,斜面の安定性評価において,物理探査技術の適用は一般的になりつつある.しかし,その多くの事例では受信機設置間隔は数mであることから,マクロ的な地盤状況の把握を試みるものであるのに対して,本研究では,受信機設置間隔20cmと極めて短くすることで,斜面表層付近に特化した探査を実施したことが特徴である.上記の仕様で乾季と雨季に電気探査を実施することで,斜面表層部の地盤の湿潤状況の変動特性を把握した結果として,浅層部に,細粒分が流失したことに起因する高空隙領域の形成が示唆されるととともに,それに起因する浸透特性が原位置計測結果(体積含水率・サクション・表面流出量)においても確認された. 上記の斜面表層部での浸透特性は,前述のようにキャピラリーバリアーに類似した状況と推察される.ただし,既往のキャピラリーバリアーに関する研究は,盛土において粗粒土の上部に細粒土を設置し,鉛直浸透を抑制することで斜面の安定性の向上を図るものが主体である.しかし,当該斜面において得られた知見は,以下の点で既往の研究とは異なると考えられる.すなわち,当該斜面での発生が確認された浅層部の高空隙領域は,人為的に設けられた粗粒土とは異なり,浸透により細粒分が流失したものと考えられるため,その分布は極めて不均質であり透水性自体も低いと考えられる.また,浸透による細粒分の流失は,斜面勾配に沿って発生するものとすると,法尻付近での発生が顕著になると推察される.さらに,既往の研究により風化花崗岩残積土での細粒分の流出は,土のせん断強度の低下につながることが知られている.したがって,当該斜面で確認された浅層部(深度0.4m~1.0m)の高空隙領域の発生は,盛土斜面における浅層崩壊の発生要因となる可能性と指摘される. 以上の事項から,浅層崩壊の発生に関して,新たな知見を提供すべき当初の計画以上に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究では,C-サイトでの原位置計測を継続し計測データ(体積含水率・サクション・表面流出量)の蓄積を図るとともに,再度電気探査を実施し斜面表層部での高空隙領域の湿潤状況の変動特性を確認する.これらの計測結果の分析および数値シミュレーションにより,平成27年度の研究において得られた盛土斜面における浅層崩壊の発生機構の妥当性について再確認する予定である. また,先行研究として実施したタイでの原位置計測結果との比較検討により,当該盛土斜面での豪雨時の雨水流出・浸透特性の相違を明らかにする予定である.具体的には,前述のP-サイトに加えて,低透水性かつ細粒分が卓越する土質材料である,風化流紋岩残積土を用いた盛土斜面(タイ・ナコンナヨック)での計測結果との比較検討により,浸透による細粒分の流失が,雨水流出・浸透特性,および浅層崩壊の発生に及ぼす影響についても明らかにする予定である.特に,C-サイトでは,表面流出の発生は,斜面表層部地盤の湿潤状況と明確な相関があるとの知見が得られていることから,上記の原位置計測で得られた雨水流出・浸透特性の分析結果に基づき,降雨量に加え表面流出量を補助指標とした新たな土砂災害早期警戒体制の提案を試みる予定である.さらに,表面流出量低減を目的とした対策工の適用性について取りまとめる. 併せて,これらの熱帯地域で得られた知見が,気候変動により集中豪雨の発生頻度が増加しつつある日本においても適用性があるかについても検討を加える予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に残額が発生した主な要因は,原位置計測に使用した計測器のメンテナンスが不要であったことに加えて,現地で実施した作業時の消耗品の出費が,共同研究者の協力により節約されたことである.
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次年度使用額の使用計画 |
原位置計測に使用した計測器は,2年間の使用を経て損傷が発生しつつある.このため,残額は新規に計測器を購入する費用に充てる予定である.また,昨年度開発した簡易な浸透実験装置の改良費およびその他雑費として充てる予定である.
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